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2025.06.21

【インド】弁護士法人マーキュリー・ジェネラル 国際コンテンツ/第28回/「知的財産法」(インド編⑰)NEW
【インド】弁護士法人マーキュリー・ジェネラル 国際コンテンツ/第28回/「知的財産法」(インド編⑰)
◇「弁護士法人マーキュリー・ジェネラル 国際コンテンツ」は、弁護士法人マーキュリー・ジェネラル様からのアジア各国の国別情報を進出~撤退までの“シリーズ”で皆様にお届けします。

Ⅰ.知的財産法

1.知的財産法の種類

インドにおいても、日本と同様に、特許法、意匠法、商標法、著作権法等の法律が制定されています。また、インドは、特許意匠商標総局(CGPDTM : Office of the Controller General of Patents、Designs and Trade Marks)を設置しており、その下部機関として特許庁・商標登録局・著作権登録局が設置されています。

2.特許法
 
インドにおいても、特許権を受けようとする者は、特許出願・審査請求を行い、特許権を付与してもらう必要があります。特許権の存続期間は出願日または最も古い優先日から20年であり、特許権をこの存続期間中維持するためには、特許権者は、更新手数料を納付しなければなりません。また、特許権者及び実施権者は、特許が付与された会計年度の直後に始まる会計年度から3年(3会計年度分)の期間におけるインドでの特許発明の商業的実施状況を、当該期間終了後6カ月以内に、インド特許庁に報告しなければなりません(インド特許規則131条(2))。その後も同様にして、3会計年度ごとに1回の頻度で国内実施報告書を提出する必要があります。従前は、「1会計年度ごとに1回」であったのですが、2024年のインド特許規則の改正(2024年3月15日施行)により、提出頻度が「1会計年度ごとに1回」から「3会計年度ごとに1回」に変更されました。

そして、登録されている特許権については、インド特許意匠商標総局(CGPDTM : Office of the Controller General of Patents、Designs and Trade Marks)のデータベースであるInPASS(Indian Patent Advanced Search System)を用いて、特許を検索することができます。

出願については、まず、インドにおいて特許出願の実体審査を受けるためには、特許出願では足りず、実体審査請求を行う必要があります(1970年インド特許法第11B条(1))。実体審査請求は、出願日から、または優先権主張を伴う出願は原出願の優先日から31か月以内に行う必要があります(インド特許規則 24B(1)(i))。従前の運用では、審査請求期間は、出願日または優先日から48か月以内とされていましたが、2024年3月15日施行のインド特許規則の改正によって短縮されました。期限内に実体審査請求がされない場合は、その特許出願は取り下げられたものとみなされることになりますので、ご注意下さい(1970年インド特許法第11B条(4))。

加えて、第一国出願義務(外国出願許可制度)として、「インドに居住する者」による発明をインド国外で第一国出願する場合は、外国出願許可(FFL:Foreign Filing License)を取得する必要があります(1970年インド特許法第39条⑴)。また、インド特許出願と同一発明を他国でも出願している場合、他国特許庁の審査状況・内容等をインド特許庁に提供しなければなりません(1970年インド特許法8条)。

次に、審査においては、最初の審査報告(FER:First Examination Report)、つまり日本でいう拒絶理由通知書が通知された場合には、発送日から6カ月以内に、すべての拒絶理由を解消するような応答書(補正書)を提出し、特許権付与可能な状態にしなければなりません。仮に、当該応答書の提出がなければ、特許出願は放棄されたものとみなされます(1970年インド特許法21条)。その後、拒絶理由がすべて解消すると、特許付与が通知(Notice of Grant)され、また特許公報(Publication of Grant)が通知された上で、特許証が交付され、設定登録によって特許権が発生します。拒絶理由が残っている場合には、拒絶査定が通知(Notice of Refusal)されます。これに対して、出願人は審査結果に不服がある場合、拒絶査定の通知の発行日から3か月以内又は高等裁判所が制定した規則に従って許可する期間内に、高等裁判所に不服申立てをすることができます。なお、以前は、知的財産審判委員会(IPAB: Intellectual Property Appellate Board)に審判請求を行なうものとされていましたが、2021年の法改正によりIPABは廃止され、インド特許庁の決定等に対する不服申立ての管轄権は高等裁判所に移管されました。

最後に、特許発明に関する公衆の合理的な需要が充足されていないなど、特許権付与の目的に反する状況にある場合には、利害関係人の請求に基づく審査により、インド特許庁はこの利害関係人に対して強制実施権を付与することができます(1970年インド特許法84条)。また、強制実施権を付与してから2年が経過しても公衆の需要が充足されていない状況が継続している場合、インド特許庁は特許権を取消すことができます(1970年インド特許法85条)。

3.意匠権

インドの意匠法では、「意匠」とは、「手工芸的、機械的、若しくは化学的の如何を問わず、又は分離若しくは結合の如何を問わず、工業的方法又は手段により、2次元若しくは3次元又はその双方の形態かを問わず、物品に適用される線又は色彩の形状、輪郭、模様、装飾若しくは構成の特徴に限られるものであって、製品において視覚に訴え、かつ、視覚によってのみ判断されるものを意味する。ただし、構造の態様若しくは原理、又は実質的に単なる機械装置であるものを含まず、1958年インド商標及び商品標法第2条(1)(V)において定義された商標、インド刑法第479条において定義された財産標章、又は1957年インド著作権法第2条(c)において定義された芸術的作品も含まない」としています(2000年インド意匠法2条(d))。

意匠権については、審査請求制度は採用されておらず、意匠出願が行われれば、すべての意匠について、審査官による実体審査が行われます。出願公開も行われず、登録意匠の内容が公開されるにとどまります。

意匠が登録された場合には、登録日から10年間意匠権を有し、延長申請がなされたときは、長官は、意匠権期間を最初の10年間の満了日から、5年間延長されます。

4.商標権

インドの商標は、先願主義を採用しているため、先に商標登録の出願手続を行った者が優先的に保護されることになります。また、商標登録出願管理を行うのは、商標登録局です。
その他にも、商標登録されていなくとも、「周知商標」として保護されることがあります。周知商標とは、「当該商品を使用しまたは当該サービスを受ける公衆の実質的大部分にとって周知となっている標章であり、他の商品またはサービスに関する当該標章の使用が、それら商品またはサービスと、最初に述べた(『周知商標』の)商品またはサービスに関して、当該標章を使用する者との間の取引過程もしくはサービス提供過程における結合関係を表示するものと考えられるおそれがある標章をいう」とされています(1999年インド商標法第2条1項(zg))。インドの裁判所では、外国の周知商標に対する保護を判断するに際して、インド国内の消費者に広く認識されていること、国境を超えた名声、波及効果、広範な使用、広告といった様々な要素を考慮して、判断するとされています。

5.著作権

インドでは、日本と同様に「無方式主義」を採用しており、著作物が創作されたときに、当然に発生し、出願・登録等の方式を要しませんが、著作権登録を任意で行うことは可能です。また、著作権登録簿に登録された項目については全て、裁判において、反証されない限り、立証された証拠とみなされるため、著作権に基づく権利行使を行う場合には有益です。
また、インドにおいては、著作者人格権という概念は想定されていませんが、ほとんど同じ内容の権利として、著作者特権という権利が認められています。

 
以上
※本稿の著作権は、弁護士法人マーキュリー・ジェネラルに帰属しています。
   第18回に続きます。

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【掲載元情報】
弁護士法人マーキュリー・ジェネラル  制作

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