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2025.03.13

【マレーシア】弁護士法人One Asia/第54回「マレーシアにおける新しい最低賃金~雇用主が留意すべき事項~」
【マレーシア】弁護士法人One Asia/第54回「マレーシアにおける新しい最低賃金~雇用主が留意すべき事項~」
◇マレーシア

1. はじめに
Minimum Wages Order 2024 [P.U.(A) 376/2024](以下「最低賃金令」という。)が2024年12月4日に官報に正式に掲載され、施行が2段階で進められることとなった。
 
1段階:2025年2月1日より、新しい最低賃金は、①従業員が5人以上の事業主及び②2020年マレーシア職業分類基準に基づき定義された専門的な活動に従事する事業主に適用される。従業員数にかかわらずこれらの事業主は適用対象となる[1]
 
2段階:2025年8月1日から、最低賃金の適用は全ての事業主に拡大され、従業員数による条件は撤廃される。
このたび導入されたマレーシアの新しい最低賃金制度は多くの関心を集めており、その影響についていくつか疑問があるかもしれない。これらの疑問を解消するため、必要な主要事項を説明するQ&Aを作成した。
 
本稿は、雇用主が持ちうる疑問を解消するため、QAを作成し、この疑問への回答を試みるものである
 
[1] 当局は、職業分類基準につき、要求される教育水準、含まれる業務内容その他の特定の基準に基づき詳細に定めている。


2. Q&A
2.1  「賃金」とは何か、また新しい最低賃金は具体的にどのようなものか
最低賃金令の根拠法であるNational Wages Consultative Council Act 2011 (国家賃金協議会法)および雇用法(Act 732)第2条において「賃金」とは雇用契約に基づいた労働の対価として労働者に金銭で支払われる基本給およびその他すべての手当てをいうと定義されている(雇用法2条1項)。しかし、これには多くの手当、その他従業員に支払われる追加報酬は含まれない(同項)。また、当局の発行する本最低賃金令に関するFAQ[2]では、これは基本給を指しており、その他手当、インセンティブ等は含まれないと説明されている(FAQ1)。したがって、最低賃金令におけるwageは基本給を基に計算することが推奨される。
 
最低賃金命令に基づく最低賃金率の月額、日額及び時間額の内訳は以下のとおりである。
 
最低賃金
月給の場合 日給の場合 時給の場合
RM 1,700 週あたりの労働日数 RM 8.72
6日 5日 4日
RM 65.38 RM 78.46 RM 98.08
 
基本給が支払われない従業員であり、出来高制、トン数制、作業単位制、運送回数制またはコミッション制に基づいてのみ賃金が支払われる場合、その従業員に対する月額賃金は2025年2月1日以降、RM 1,700.00未満であってはならないものとする。
上記賃金率は従業員5人超の事業主に適用される。従業員5人未満の事業主(MASCO Employersを除く)は2025年8月1日まで、引き続き最低月額賃金RM 1,500を支払うことが認められる。
  
2.2     日給ベースで給与を支払っている場合、月額の賃金合計はRM1,700を超える必要があるか?
 ない。
 
日雇い労働者の最低賃金は日額に基づいており、具体的には週に働く日数によって決定される。日額の合計は必ずしも月額RM1,700に達しないが、それでも問題はない。
 
2.3     現行の雇用契約及び労働組合の労使協定に対する法的影響は? 
すべての雇用契約及び労使協定は、最低賃金令に基づき、必要に応じて改訂されなければならない。
 
2.4     外国人労働者にも適用されるのか
 適用される。
 
最低賃金令は、家事使用人(domestic workers)を除き、民間部門の全ての労働者(外国人を含む)に適用される(最低賃金令2項)。
 
国家賃金協議会事務局が提供するFAQ(よくある質問)で説明されているとおり、最低賃金政策は国籍に関係なく全ての労働者を平等に扱うことを目的としている。
この方針は、1997年にマレーシアが批准した国際労働機関(ILO)賃金同一条約(第100号)に整合している。
 
さらに、1955年雇用法第69F条、サバ労働条例(第67章)第118B条、サラワク労働条例(第76章)第119B条において、国内労働者と外国人労働者の間での差別行為は明確に禁止されており、このような条項にも合致する。
 
 
2.5     従業員が同意すれば最低賃金より低い基本給を支払うことは可能か
不可能である。
 
そのような合意は、国家賃金協議会法43条[3]に違反し、違反に係る従業員1名につき1万リンギット以下の罰金の対象となる。さらに支払いを行わなかった最低賃金との差額についても支払い義務を負う(同法44条)。
 
2.6     既に最低賃金以上の賃金を得ている従業員を含め、全従業員に賃上げを行う必要があるのか
必要ない。
 
最低賃金令による賃金引き上げは最低賃金令所定の賃金を得ていない従業員のみに適用される。
 
RM 1,700以上の賃金を受け取っている従業員については、賃金を引き上げる義務はない。ただし、一部の従業員だけに賃上げを行うことによって、労働者間の公平性がかえって妨げられる企業においては、別途全従業員を対象とした賃金の見直しが要求される。
 
2.7     最低賃金令に基づく賃金引き上げは、労働組合の労使協定に定められた年次昇給の一部とみなされるか? 
いいえ。
 
最低賃金令への適合のために必要な賃金引き上げは法定の昇給であり、労使協定に規定された年次昇給の一部とみなされない可能性がある。
 
労使協定に基づく年次昇給が実績ベースで付与されるものである場合、従業員は両方の昇給を受け取る権利を有する可能性がある。
 
2.8     最低賃金令に従わない雇用者に対してどのような措置が取られるか
 国家賃金協議会法第43条乃至47条は、最低賃金命令(MWO)に従わない雇用者に対して以下の罰則を規定している。
 
(i) 初回違反の罰則:従業員1人あたり最高RM10,000の罰金
(ii) 継続的な違反に対する罰則:有罪判決後、違反が続いた日数1日ごとに最高RM1,000の罰金
(iii) 再犯の罰則:最高RM20,000の罰金または最長5年の懲役、又はその両方
 
[2] https://www.mohr.gov.my/pdf/FAQ%202024.pdf
[3] 43. An employer who fails to pay the basic wages as specified in the minimum wages order to his employees commits an offence and shall, on conviction, be liable to a fine of not more than ten thousand ringgit for each employee.

3. 最後に
上記につき、ご質問がある場合、またはこれらの変更に際しサポートが必要な場合は、当社の専門家チームがお手伝いいたします。
以上
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この記事に関するお問い合わせは、ホームページ https://oneasia.legalまたはinfo@oneasia.legal までお願いします。
なお、本ニュースレターは、一般的な情報を提供することを目的としたものであり、当グループ・メンバーファームの法的アドバイスを構成するものではなく、また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当グループ・メンバーファームの見解ではございません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず各メンバーファーム・弁護士にご相談ください
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(ご参考)
本ニュースレター(2025年2月19日号)
ee050ab909151afc30153da78305ebf8.pdf

〇第51回 【ラオス】「ラオスにおける金銀行(Bullion Bank )について」
〇第52回 【ベトナム】「〈Vietnam Law 360 2024年ゆく年くる年〉」
第53回 【ラオス】「ラオスにおける外貨使用について」

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