国別情報一覧

HOME > 国別情報一覧 > シンガポール > 詳細

国別情報一覧

2019.12.27

シンガポールシンガポール【シンガポール】「シンガポールの自国民雇用促進策~外国人労働者比率の引き下げについて~」
【シンガポール】「シンガポールの自国民雇用促進策~外国人労働者比率の引き下げについて~」
2019年2月、シンガポール政府は、シンガポール人の雇用促進の一環として、外国人労働者比率上限(以下、DRC:Dependency Ratio Ceiling)の引き下げを発表しました。これにより今後、シンガポールでビジネスを行う企業は、その国籍にかかわらず、これまで以上にシンガポール人を雇用する義務が生じます。本稿では、本施策の概要と、考えられる影響についてレポートします。
 
1.DRC引き下げの背景
 これまで、シンガポール政府は外国資本の積極的な誘致、外国人労働者の受け入れにより、急速な経済発展を遂げてきましたが、一方で外国人労働者を大量に受け入れた結果、住宅価格の高騰や、公共機関の混雑による生活環境の悪化、中間層の雇用機会の縮小などの諸問題も表面化しました。そこで、シンガポール政府は、従来の経済発展重視から、福祉の充実、雇用対策等、国民重視の政策への転換を図っています。
 政府は、2010年より雇用対策の一環として、「シンガポーリアン・コア」と呼ばれる目標を掲げています(図表1)。「シンガポーリアン・コア」とは、外国人労働者を長期的に全労働人口の3分の1へ抑え、シンガポール人を経済活動のコア(中心)にするというものです。政府はこの目標を達成するため、シンガポール人の雇用・育成に熱心でない企業の「Fair Consideration Framework」(※)ウォッチリスト(警告リスト)への掲載、対象企業の外国人労働者のビザ発給の厳格化、就労ビザの取得基準の引き上げといった対策を次々と打ち出しています。
 そして本年度に発表されたのが、DRCの引き下げです。DRCは、企業が全従業員に対して雇用できる外国人労働者比率の上限を指します。DRCは産業ごとに異なっていますが、サービス産業に限ってみれば、DRCは現行の40%から38%(2020年1月)、35%(2021年1月)へと段階的に引き下げられることになります。
※企業に対して、シンガポール人へ公平な雇用機会の提供を義務付ける規制。2014年施行。


 
2.DRC引き下げがサービス産業に与える影響
 シンガポールの名目GDPに占めるサービス産業の比率が7割弱であることを踏まえると、金融、ビジネスサービス(コンサル等)、不動産、物流、小売、卸売、飲食といったサービス産業に及ぼす影響は非常に大きいといえます。
 シンガポールの外国人労働者は原則、①EP(Employment Pass)、②S Pass、③WP(Work Permit)の3つの就労ビザに区分されます(図表2)。今回の施策は、シンガポール人の雇用を奪いかねないS Passビザ(中技能向け熟練労働者)の外国人労働者比率の上限を厳しく設定し直した点に特徴があります。
 前述の通り、DRCは現行40%ですが、S Passの外国人労働者については上限を15%に抑えなければなりません。さらに、この比率は、2021年までに10%にまで引き下げられることになります(表3)。なお、EPパスは、DRCの算出に含まれません。





 
3.DRC引き下げに関する日系企業の声
 サービス産業の中でも、店舗販売員や飲食店フロアスタッフなどの職種は、主にS Passビザを保有する外国人労働者への依存度が高いため、DRCの引き下げは、飲食・小売企業には大きな影響を及ぼします。シンガポールに進出しているリテール系日系企業2社に、人事面の現状・課題、人材確保のための対策についてお伺いしましたのでご紹介します。
(1)小売店A社(シンガポールに約10店舗を展開)
 土日・祝日の出勤があるなどの理由から、シンガポール人の小売業への就業意欲は低い。マレーシアやフィリピンなどの外国人採用に頼らざるを得ず、外国人労働者比率は常に上限に達している。また、シンガポール人は同業者間での転職も多い。
 店舗の拡大にあたってはDRCを考慮し、シンガポール人の確保を最優先で検討していく。具体的には、インセンティブ制度の導入など、シンガポール人の雇用を増やせる仕組みづくりを検討している。また、勤務ローテーションを考慮するなど、社員のモチベーション向上につながる対策も必要であると考えている。
(2)飲食店B社(シンガポールに約10店舗を展開)
 シンガポール人にとっては、自宅から通いやすいエリアかどうかも就業にあたっての大きな要素となるため、市街中心部等へ簡単に出店できない点が課題である。
 同業他社の労働条件は常に注視しており、賃金条件の調整や週休1.5日制を2日制へ増やすなど、働きやすい環境づくりに努めている。当社は当地で一定のブランド力があると自負しているが、各種労働条件の見直しのほか、更なるブランドイメージ向上が必要と考えている。
 
4.おわりに
 企業の人材確保は安定した経営基盤を構築する上で不可欠であり、今後も当地、シンガポールにおいてはシンガポール人の雇用促進に関する施策動向には注視が必要です。
 
【西日本ティ銀行/シンガポール駐在員事務所 作成記事】
第1回「シンガポール政府による糖尿病対策と日系企業のビジネスチャンス」
第2回「シンガポール政府による糖尿病対策と日系企業のビジネスチャンス」
 
【掲載元情報】
西日本シティ銀行シンガポール駐在員事務所  作成

前のページへ戻る

  • セミナー&商談会のご案内
  • アジアUPDATE
  • 国別情報一覧

PAGETOP