2013.02.01
中国【中国】陳弁護士の法律事件簿①「労働者の行為による会社損失に対し、賠償要求は可能か」- 陳弁護士の法律事件簿 第1回
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王さんは広東省のある服装会社で部門経理を務め、業務上の過ちで会社に対し二つの注文書について約数百万元の経済損失をもたらした。王さんは申し訳ないと思い、自ら辞職を願い出たが、会社は辞職だけでは会社の損失を挽回できないと判断し、裁判所に訴訟を提起、王さんに損失を全額賠償するよう要求した。
裁判所は、本件は王さんが職務履行中に発生した損失であるため、会社が内部管理制度に基づき処理するものとし、裁判所の管轄に属しないため、会社の訴訟請求を棄却した。これを受け会社は直ちに労働契約、会社内部の関連規則制度に基づき労働仲裁を提起し、王さんに損失を賠償するよう要求した。
仲裁委員会は審理を経て、「労働者は労働契約の履行過程において雇用単位に経済損失を与えた場合、賠償責任を負わなければならない。但し、もし一般的な業務過失である場合は、労働者にとって避けられないものであり、労働者に当該損失の負担を要求することは合理的ではない。当該損失による結果は雇用単位自体の経営リスクと看做されるほうがより適切である。労働者は過ちについて故意又は重大な過失がある場合にのみ、賠償責任を負わなければならない。」とし、会社の訴訟請求を棄却した。
「賃金支払い暫定規定」第十六条は、「労働者本人の原因により雇用単位に経済損失をもたらした場合、雇用単位は労働契約の約定に基づき、労働者に対し経済損失の賠償を要求することができる。経済損失の賠償については、労働者本人の賃金から控除することができる。但し毎月の控除額は労働者の当月賃金の20%を超えてはならない。」と規定している。
又、「広東省賃金支払い条例」第十五条は、「労働者が過ちにより雇用単位に直接経済損失を与え、法により賠償責任を負う場合、雇用単位は労働者の賃金から賠償費用を控除することができる。但し、事前に書面で労働者に控除の原因と金額を通知する。書面で通知しない場合は、控除してはならない。賠償費用が控除された後、当月賃金の残額は当地の最低賃金基準を下回ってはならない。」と規定している。前述の二つの規定は内容に多少違いがあるが、いずれも会社は労働者に対し会社に与えた損失の賠償を要求できることを認めている。会社の労働契約及び就業規則規制には、労働者が会社に損失をもたらした場合について相応の規定も定められている。しかし、なぜ裁判所及び仲裁委員会はサポートしないのか?
【分析】
裁判所、仲裁委員会はそれぞれ異なる理由で会社の訴訟請求を棄却した。その理由は主に、法律法規には労働者による会社の損失について原則的な規定は定められているが、労働者が業務過程において過ちにより雇用単位に損失をもたらした場合の賠償を負担する割合について明確な規定は定められていないことにある。
大部分の司法機関は、「もし労働者の故意に雇用単位へ損失をもたらした場合、その主観的な悪意が大きいため、労働者に全額賠償を要求することができる。もし労働者が故意でなく雇用単位に損失をもたらした場合、労働者の過ちの程度、企業の利益、企業のリスク、職場の特徴、労働者の賃金収入などの状況に基づき総合的に考慮した上で、労働者が一部の賠償を負担する。」と認定している。
その理由は、雇用単位から労働者に支払う労働報酬と、労働者が作り出した労働成果とは対等ではなく、雇用単位は労働成果の享有者として、損失が発生した場合でもその経営リスクに含まれることになる。よって、労働者に全ての賠償を負担させることは不公平である。
本件については、王さんの職場、賃金収入、注文書損失の原因などの状況を総合的に考慮した上で、王さんは会社の損失を負担する必要がないと認定された。

- 【掲載元情報】
- GPパートナーズ法律事務所 パートナー弁護士 陳 文偉
- [略歴]
上海復旦大学卒業後、1992年日本に留学。
1995年から1999年まで九州大学法学部にて国際経済法を専修。
日本滞在中から日系企業に対し中国に関する法律相談や法務セミナーを実施。
1999年帰国後、活動の中心を上海とし現地の日系企業に対し法律サービスを提供。
中国における会社設立・M&A・清算、PL問題、労働訴訟等、日系企業の法的課題を多く解決。
[所属]
中華全国弁護士協会会員、中華全国弁護士協会経済法務専門委員会委員





