2018.08.23
シンガポール【シンガポール】シンガポール政府による糖尿病対策と日系企業のビジネスチャンス 第1回/全2回
- 【シンガポール】シンガポール政府による糖尿病対策と日系企業のビジネスチャンス 第1回
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はじめに
近年、シンガポールでは糖尿病患者が急増しています。リー・シェンロン首相は、2017年の方針演説において糖尿病対策を重大施策の一つとして挙げ、過食の抑制や糖質含有量の多い飲食物の摂取制限などの必要性を説きました。本稿では、今後国民の健康志向の高まりが予想されるシンガポールの現状及び日系企業にとってのビジネスチャンスについて、全2回のシリーズで紹介します。
第1回は、シンガポールにおける糖尿病の現状、シンガポール政府及び現地企業の取組みについて解説致します。
1.世界ワーストレベルの糖尿病患者率
■シンガポールの糖尿病患者数
国民人口約400万人(総人口約560万人)を有するシンガポールですが、シンガポール保健省は、国民に占める糖尿病患者の比率が約11%(44万人、2014年時点)、そのうち60歳以上の患者比率にいたっては約30%にのぼると発表しています。
この比率は世界的に見てもワースト1位の米国に次ぐもので、同省はシンガポールの糖尿病患者数の比率が2050年には約25%(約100万人)にまで拡大すると予想しています。
■糖尿病患者増加の背景─食生活
シンガポール人の糖尿病患者が増加している背景として、現地の食習慣が挙げられます。シンガポール人はチキンライス、チリクラブ(写真)などのローカルフードに代表されるような、脂っこく、濃い味付けの食事を好みます。飲料は糖度の高いものが広く受け入れられており、砂糖の入った緑茶やKopi(コピ)と呼ばれるコーヒーに練乳を混ぜたものがいたるところで売られています。
また、労働人口の大半が共働きで、栄養バランスを考えて自宅で調理をする習慣があまりなく、食事を外食や中食で済ませることが多い点も特徴の一つです。こうした食習慣がシンガポールでの糖尿病患者数の増加に繋がっていると考えられています。
2.シンガポールの医療・保健歳出の増加
2010年のシンガポールにおける医療・保健分野の歳出額は、37.4億Sドル(約3,110億円)と、歳出全体に占める比率が8.3%であったのに対し、2017年における同分野の歳出予算は107.4億Sドル(約8,931億円)と、同比率が14.3%まで上昇しています。
また、現在、糖尿病治療に対する政府の医療費支出は年間で10億Sドル(約831億円)と、政府の医療・保健関連予算全体の9.3%を占めており、2050年には25億Sドル(約2,079億円)に達するとシンガポール保健省は試算しています。
糖尿病患者の増加に伴って、政府の医療・保健支出も大幅に増大する見込みであり、政府はなんとしても糖尿病患者数の抑制に取り組まなければならないと危機感を持った対応を行っています。
3.シンガポール政府による糖尿病対策及び現地企業の取組み
リー・シェンロン首相の方針演説後、シンガポール政府が糖尿病対策の関連施策を発表したことから、それに沿った取組みを行う企業も出始めています(以下、カッコ内は実施主体)。
・ヘルシーメニューを取り扱う「ホーカー(*)」の倍増(シンガポール健康促進庁)
・シンガポール内で販売する飲料の糖度を2020年までに12%以内に制限(シンガポール保健省、コカ・コーラ、ポッカ等飲料メーカー7社)
・スーパー全店に玄米の特設売場を設置(地場スーパー大手「フェアプライス社」)
さらに、現地メディアは政府が砂糖税の導入を検討していることも報道しており、今後も施策が追加されていくことが考えられます。
*ホーカー:シンガポール各地にある安価な屋台街。シンガポール人が日頃よく利用する。
(写真)チキンライス(左)とチリクラブ
第2回は、糖尿病対策に伴う日系企業にとってのビジネスチャンスについて解説致します。
【関連情報】
・シンガポール政府による糖尿病対策と日系企業のビジネスチャンス 第2回/全2回
- 【掲載元情報】
- 西日本シティ銀行 シンガポール駐在員事務所 稲場 久隆