2018.06.19
- その他のアジア【アジア】弁護士法人ブリッジルーツ「外国人雇用時の法的留意点と労務管理実務」 第2回/全3回
- 【アジア】弁護士法人ブリッジルーツ「外国人雇用時の法的留意点と労務管理実務」 第2回
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第2回目は、外国人雇用を成功に導く3つのポイントのうち、外国人の労務管理について解説する。
3.外国人労務管理上の留意点
以下では、外国人労働者を採用する場合、実務上特に留意が必要な場面及びその対応方法を紹介する。
(1)募集・採用
周知のように、労働者を採用する際は、表1に記載された事項を書面又は口頭で明示する必要がある。外国人労働者を雇用する際にも、これらの労働条件を通知する必要がある。しかし、日本語だけではなく、雇用された外国人が理解できる言語で通知することが推奨される。なぜなら、日本語のみで通知すれば、外国人労働者が日本語を読めない場合、その通知の効力が争われる可能性が高いためである。
また、外国人を雇用する際、企業は労働者のために在留資格の申請手続きに協力しなければならない。この申請手続きに関し、ある企業において、在留資格申請の成功率を高めようと、在留資格の申請書に虚偽の内容を記入したという事例があった。この場合、企業は不法就労助長罪に問われる恐れがあるため、真実に基づいた書類を準備するよう注意しなければならない。
(2)就業規則
就業規則の効力は、適用を受ける事業場の労働者にその内容が周知された時点から生じる。そこで、労働条件の通知と同様、就業規則の効力に対する争いを防止するために、外国人労働者が理解できる言語で就業規則を明示することが望ましい。
また、外国人を雇用する場合、従来の日本人社員のみの就業規則で対応できない場合がある。例えば、外国人労働者の在留資格による従事業務が限られているため、配置転換や職務変更等一律に労働条件を規定する就業規則は、外国人労働者に適用できない場合がある。そのため、外国人労働者に対しても合理的な就業規則となるように配慮し、就業規則を改定することが推奨される。
(3)均等待遇
労働基準法(以下「労基法」という)第3条に、「使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない」と定められている。したがって、日本人従業員と同一労働に従事している外国人労働者に対し、合理的理由なく労働条件に差異を付けることは法律違反である。なお、外国人が従事する職種・雇用形態に起因する賃金格差は、国籍による差別とはならない。
しかし、言葉や在留資格等特殊な事情により、外国人労働者を日本人従業員と区別する必要が生じる場合もある。この場合、企業は、そのような区別や差異が、①合理的な理由があるか否か、②国籍、信条又は社会的な身分による差別的取扱ではないかについて自己検証することが推奨される。
(4)賃金
外国人労働者を雇用する際、最も多いのが賃金に関する紛争である。このような紛争を回避するために、次の各点に注意すべきである。
まず、日本の最低賃金法を遵守することである。日本人労働者、外国人労働者を問わず、日本で勤務させる以上、企業は、強行法規である最低賃金法を遵守しなければならない。外国人労働者の母国法における最低賃金を遵守していても、日本法における最低賃金法違反となりうる。
次に、出入国管理及び難民認定法第7条第1項第2号の基準を定める省令により、「経営・管理」、「研究」、「教育」、「技術・人文知識・国際業務」、「企業内転勤」、「興行」、「技能」の在留資格について、「日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上の報酬を受けること」が条件とされているため、企業は、同一労働に従事している外国人に対し、日本人従業員より低い賃金を設定することができない(この点についてはし、前述の労基法第3条によっても制限されている)。
最後に、賃金控除について注意する必要がある。日本法における税制度や社会保障制度等は、外国人労働者にも適用されているため、外国人労働者の賃金から所得税、社会保険料、年金等も控除すべきである。しかし、これらの制度に対し、外国人労働者は必ずしも理解できるわけではないため、企業は外国人労働者に対し説明する必要がある。特に年金については、外国人労働者が日本で老後生活を送る予定がない場合、支払いを拒む可能性が高いため、年金の支払は義務であることを理解させる必要がある。
また、技能実習生を受け入れる際に、賃金から管理費を控除することができるか否かという疑問を抱えている企業があるかもしれない。この問題に対し、上記法定の控除項目以外、法令による別段の定めや労使協定を締結していない限り、又は労働者の自由な意思による相殺同意がない限り、賃金の一部を控除することはできない(労基法第24条)。
(5)労災
前述の税制度や社会保障制度と同様に、外国人労働者に対し、労災制度も適用される。そのため、外国人労働者も労災保険に加入しなければならない。
労働者のために労災保険に加入すれば、労災事故が発生した場合、労災保険の賠償金で全ての損害を補填できると考えている企業も少なくない。しかし、労災保険金の損害賠償範囲について、慰謝料は含まれず、逸失利益も一部に限られるため、労働者は、労災の賠償金を取得した後、使用者である企業が安全配慮義務に違反したことを理由とし、企業に対し別途逸失利益や慰謝料等を請求することができる。企業が、労働者に対し適切な安全教育、業務指示を行ってない場合、安全配慮義務違反と判断され、労働者に対する損害賠償責任を認められる可能性が高い。外国人労働者を雇用する場合、この点に特に注意する必要があると思われる。外国人労働者は日本語の指示や標識を理解できないため、作業中に事故を起こすケースは非常に多い。したがって、企業は外国人が理解できる言語、方法を用いた教育、指導を行う必要がある。特に機械、設備、安全装置又は保護具の使用方法等については確実に理解させるように留意する必要がある。
(6)解雇
日本企業は、外国人労働者の専門的能力に期待して採用する場合が多いと思われる。採用された労働者が、使用者が期待した業績や能力を発揮できない場合、使用者は直ちに労働者を解雇するケースが少なくない。確かに、一般の労働者に比べると、その専門的能力を重視して採用された外国人労働者を解雇する場合、企業に対し解雇権濫用の判断は緩和されているが、期待した業績、能力を発揮しないことが直ちに解雇事由になるわけではないことに注意する必要がある。企業が、教育、指導によって労働者の能力向上に努めても、外国人労働者が依然として改善しないことが、解雇の要件となっている。
第3回目は、残りの2つのポイントについて解説する。
【関連情報】
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- 【掲載元情報】
- 弁護士法人ブリッジルーツ 中国人弁護士 厳逸文