2018.03.26
ベトナム【ベトナム】森・濱田松本法律事務所 アジアニュース/第29回『ベトナム 小売業の外資規制-ENTの免除条件の明確化』
- 【ベトナム】森・濱田松本法律事務所 アジアニュース/第29回
-
このたび、森・濱田松本法律事務所アジアプラクティスグループでは、東南・南アジア各国のリーガルニュースを集めたニュースレター、MHM Asian Legal Insights第83号(2018年3月号)を作成いたしました。今後の皆様の東南・南アジアにおける業務展開の一助となれば幸いに存じます。
◇ 小売業の外資規制-ENTの免除条件の明確化
(1) 従来のENTの基準と免除条件
ベトナムでは、従前、小売業への外資出資比率は49%に制限されていましたが、2009年1月1日から当該制限は撤廃され、外資100%での小売業への進出が許容されました。しかし、出資比率以外の規制として、外資企業による2店舗目以降の小売店舗開設の可否については経済需要に応じて個別に判断されるという、経済需要テスト(Economic Needs Test:いわゆるENT)をクリアする必要があるとされています。そして、法令上、ENTの判断基準が抽象的・不明確であるため、実務上、当局の広範な裁量によって個別に判断され、外資企業にとっては2店舗目以降の小売店舗の開設が事実上困難となる事態も見られていました。
なお、ENTに関しては、商工業省(Ministry of Industry and Trade)が2013年4月22日付で公表した外資企業による交易活動に関する通達(Circular No. 08/2013/TT-BCT(2013年6月7日施行))(「通達8号」)により、省・中央直轄都市による商業マスタープランがあり、かつ、インフラが整備されている地域において、面積500平方メートル未満の規模の小売店舗を開設する場合には、当該小売店舗の開設については、ENTを経る必要がないとされ、一定程度の緩和が行われました。しかし、「インフラが整備されている地域」の具体的な内容は示されておらず、当該ENTの免除を享受できる条件が必ずしも明確ではありませんでした。
(2) 本政令によるENTの基準と免除条件の明確化
このENTの基準と免除条件に関し、外資企業による交易活動に関する政令(Decree No.09/2018/ND-CP)(「本政令」)が発布されました。本政令は、2018年1月15日より施行されています。
まず、ENTの免除条件に関し、本政令23条1項によれば、ENTの免除を受けることができる条件として、①面積500平方メートル未満の規模であること、②トレードセンターに位置すること、及び③コンビニエンスストア又はミニスーパーマーケットでないことが明記されました。免除を受けるためには、これら①から③すべての条件を満たす必要があります。これにより、従来必ずしも明確ではなかったENTの免除条件が若干クリアになったものと評価できます。
また、ENTの審査基準として、通達8号では小売店舗が開設される地域の①小売店舗数、②市場安定性、③人口密度、④地域の規模が挙げられているに過ぎませんでしたが、本政令では、①小売店舗開設に伴って影響を受ける地域の規模、②同地域内の小売店舗数、③同地域内の市場安定性や伝統的なマーケット等への影響、④同地域内の交通渋滞、環境衛生及び防災への影響、⑤ベトナム人の雇用創出への貢献可能性及び国家予算への貢献可能性等の社会経済発展への貢献要素が挙げられました。したがって、本政令により、ENTの審査基準自体も明確性が増したものと評価できますが、引き続き当局の裁量が大きく影響することは否定できないため、留意が必要です。
なお、ベトナム政府は、外資への小売業の全面的な開放に関してはいまだ慎重な態度を取っていますが、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(TPP11協定)に参加表明していた日本やベトナムを含む11か国は、3月8日、同協定に署名をし、同協定の早期発効(早ければ2019年中)を目指しています。同協定がベトナムについても発効した場合、ベトナムについての発効から5年後にENTが撤廃されることが約束されていることもあり、今後の動向も注視する必要があります。
- 【掲載元情報】
- 森・濱田松本法律事務所アジアプラクティスグループ 作成