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2017.04.17

中国中国【中国】陳弁護士の法律事件簿㉛「へそくりをいかに処理するか?」
【中国】陳弁護士の法律事件簿㉛
へそくりをいかに処理するか?
 
 
張さんは自分が重い病気にかかったことを知った後、自分が死んだら、年老いた母の李さんの面倒を見る人が誰もいなくなると心配し、又、妻が母とずっと不仲であることを考えた上で、長年にわたって貯めてきた10万元のへそくりを密かに母に与えるとともに、母に対し今後の生活に活かすように言った。その後間もなく張さんは亡くなった。息子に死なれた李さんは大病にかかり、多額の医療費を必要とするため、息子から生前に与えられた10万元をもって医療費を支払った。
ところが、息子の妻の王さんは偶然親戚から、姑の李さんの入院費は張さんから生前に密かに与えられたもので、かつ金額が大きいことを聞いた。王さんは、「張さんのへそくりは夫婦の共同財産に該当し、張さんはそれを密かに姑に贈与したことを自分に隠している。自分は張さんの贈与行為に同意しない」と主張し、姑の李さんに対し10万元の返還を要求したが、返還されなかったため、裁判所に対し訴訟を提起した。
 
本件の審理において二つの意見がある。
 
一つの意見は、10万元は李さんの手元にあり、李さんは当該10万元の所有権を既に合法的に取得し、張さんの贈与行為も既に遂行され、法的効力が生じた。王さんが李さんに対し10万元の返還を要求することは法的根拠がないというものである。
 
もう一つの意見は、10万元の貯金は夫婦の共同財産に該当し、張さんは贈与を行う場合、事前に妻の王さんの同意を得るべきである。王さんが同意せず、訴訟を提起することは、夫の張さんの一方的な贈与行為を認めないことを表明している。従って、当該贈与行為は法的効力が生じず、李さんは返還すべきであるというものである。
 
 
『分析』
 
 
まず、『婚姻法』第17条には、「夫婦は共有財産に対し、平等の処分権を有する。」と規定している。『最高人民法院による<中華人民共和国婚姻法>に適用する若干問題の解釈(一)』第17条には、「夫又は妻は生活に影響のないことで、夫婦の共同財産の処分について重要な決定を下すには、夫婦双方が平等に協議し、意見を統一するものとする。」と規定している。従って、生活に影響のないことで夫婦の共同財産の処分について重要な決定を下す場合は、夫婦双方が共同で決定を下す、又は事前に相手方の同意を得るべきである。
 
次に、贈与行為が有効になるための一つの要件は、贈与者が贈与対象となる財産に対して完全な処分権を有することである。前述の法律規定からみて、夫婦の共同財産に対し、夫又は妻のいずれか一方では完全な処分権を有しない。従って、夫又は妻のいずれか一方が単独で、生活に影響のないことで夫婦の共同財産に対し重要な処分を行う行為は、相手方が明確に同意の意思表示をする前は、効力が未定の、無権利者による処分行為に該当する。
 
最後に、夫又は妻のいずれか一方は、相手方が単独で行う、前述の効力が未定の、無権利者による処分行為に対して追認又は拒絶を自ら決定することができる。一方が追認を決定した場合は、相手方の処分行為には法的効力が生じる。一方が拒絶を決定した場合は、相手方の処分行為には法的効力が生じず、最初から効力を有しない。
 
本件の張さんが10万元の夫婦の共同財産を単独で母に贈与する行為は、効力が未定の、無権利者による処分行為に該当する。妻の王さんが事情を知った後に李さんに対し返還を要求することは、王さんが当該贈与行為を否認することを表明している。従って、張さんの贈与行為は最初から法的効力が生じず、王さんの請求は裁判所に認められた。
 
本件から見て、夫又は妻のいずれか一方は相手方に知らせずにへそくりを処理する場合は、適切な金額にとどめるべきであり、生活に影響のないことで、かつ金額が比較的大きい又は多額の場合は、事前に相手方の同意を得るべきである。さもなければ、法的効力が生じないリスクがある。これに反して、生活に影響のないことでへそくりを処理し、金額が小さい場合は、相手方の同意を得る必要がない。 
 
以上


※「陳弁護士の法律事件簿」の過去記事は、 「国別情報一覧」 よりご確認ください。

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【掲載元情報】
GPパートナーズ法律事務所 パートナー弁護士 陳 文偉
[略歴]
上海復旦大学卒業後、1992年日本に留学。
1995年から1999年まで九州大学法学部にて国際経済法を専修。
日本滞在中から日系企業に対し中国に関する法律相談や法務セミナーを実施。
1999年帰国後、活動の中心を上海とし現地の日系企業に対し法律サービスを提供。
中国における会社設立・M&A・清算、PL問題、労働訴訟等、日系企業の法的課題を多く解決。
[所属]
中華全国弁護士協会会員、中華全国弁護士協会経済法務専門委員会委員

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