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2016.12.02

中国中国【中国】陳弁護士の法律事件簿㉙「許可されていない場合も、残業とみなされるか?」
【中国】陳弁護士の法律事件簿㉙
許可されていない場合も、残業とみなされるか?  
 
 
甲が勤める広告会社は、取引先の要求及び業務上の必要に応じて突発的な残業をして資料を作成することが多い。会社には明確な残業審査許可制度はあるが、従業員は関連手続が煩雑であるとの思いから、突発的な残業については残業代を請求していなかった。2016年3月、甲は退職する際、会社に対し過去2年間分の残業代の支払を請求した。会社は、甲の残業代の請求がその上司から許可されなかったと主張し、残業代の支払を拒否した。甲は残業に係るタイムレコーダーの打刻データ及び資料の最終更新日時を証拠として、労働仲裁機構に対し仲裁を提起し、会社に残業代を支払うよう請求した。労働仲裁機構は審理を経て、会社が甲に対し残業代を支払う必要はないという裁決を下した。甲はこれを不服として裁判所に対し訴訟を提起した。
  
 
『分析』
 
 
1、甲が規定勤務時間後に事務所に残り、仕事を続けることは残業と見なされるか否かについて、裁判所では異なる意見が三つ出た。
 
一番目の意見は残業と見なされるというものである。
 会社の業務の特徴、タイムレコーダーの打刻データ及び資料の最終更新日時により、甲が事務所で業務を行ったことを証明でき、残業の実質的内容と要件に合致していれば、残業と見なされるべきである。
 
二番目の意見は残業と見なされないというものである。
 
タイムレコーダーの打刻データにより、甲が8時間の勤務時間外にタイムカードを押したことのみを証明できるが、電子ファイルの最終更新時点により、甲が事務所において電子ファイルを作成したことを証明できない。電子ファイルの作成日時は後からでも変更できる。又、会社には、残業について上司から許可を得る必要があるなど明文の規定がある。従って、残業と見なされるべきではない。
 
三番目の意見は一概に論じるわけにはいかず、証拠及び事実に基づき総合的に判断するというものである。
 
最終的に裁判書は三番目の意見を認めた。具体的に言えば、
 
1)労働者は残業代を請求する場合、立証責任を負う。『最高人民法院による労働紛争案件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈(三)』第9条の規定によると、雇用企業が残業の存在を示す証拠を持っていることを証明できる場合を除き、原告甲はその残業の存在について立証責任を負うものとする。
 
2)雇用企業の社内規定については柔軟に解釈すべきである。広告会社には、残業の届出が上司から許可された後、残業と見なされるなど明文の規定がある。実務において、手続が煩雑であるため、2時間以内の短時間残業の場合、従業員は上司から許可を得たり、上司に届け出たりせず、残業時間が比較的長い場合、又は週末の長時間残業の場合にのみ、上司に届け出る。従って、上司の許可及び届出のみをもって残業の存在を証明できず、その他の事実や証拠と結び付けて判断すべきである。
 
3)残業となる要件。残業となる場合は、時間要件と労働要件の二つを満たす必要がある。労働者は業務を行うために労働時間を延長したことを証明できる場合にのみ、残業と見なされる。
 
4)証拠がある場合に残業と見なされる。原告甲から提供されたタイムレコーダーの打刻データが時間要件となり、電子ファイルの更新日時、取引先からの臨時調整依頼の引受日時及び引渡日時、成果の作成日時などが一連の証拠を形成し、労働要件となる場合に、裁判所はそれらの証拠に基づき総合的に考慮し、甲が残業したと認定する可能性がある。
 
以上のことから、残業に対する上司の許可の有無のみをもって甲が残業したか否かを判断するべきではなく、甲から提供された残業の存在を示す証拠に基づき、甲が残業したか否かを判断するべきである。
 
 
残業代についての紛争は実務において多発する労働紛争の一つである。企業は全面的に裁判所の残業認定に対する要件を理解し、企業の残業代管理を改善するべきである。
 
以上


※「陳弁護士の法律事件簿」の過去記事は、 「国別情報一覧」 よりご確認ください。

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【掲載元情報】
GPパートナーズ法律事務所 パートナー弁護士 陳 文偉
[略歴]
上海復旦大学卒業後、1992年日本に留学。
1995年から1999年まで九州大学法学部にて国際経済法を専修。
日本滞在中から日系企業に対し中国に関する法律相談や法務セミナーを実施。
1999年帰国後、活動の中心を上海とし現地の日系企業に対し法律サービスを提供。
中国における会社設立・M&A・清算、PL問題、労働訴訟等、日系企業の法的課題を多く解決。
[所属]
中華全国弁護士協会会員、中華全国弁護士協会経済法務専門委員会委員

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