2016.11.11
中国【中国】陳弁護士の法律事件簿㉘「氏名を無断使用された場合、法はいかに救済するか?」
- 【中国】陳弁護士の法律事件簿㉘
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氏名を無断使用された場合、法はいかに救済するか?
張さんは有名なスポーツスターである。ある日、張さんは自分の氏名が、ある化粧品の商標に使用されていることに気づき、大変立腹し、「当該化粧品会社が自分の権利を著しく侵害し、化粧品を購入しようとする大衆に悪影響を及ぼした」と判断し、商標主管部門に対し商標を無効と認定するよう請求した。
化粧品会社は、自社の製品と張さんの職業は無関係で、自社の商標が合法的に登録されたものであると主張した。これについて、双方は紛争となった。
『分析』
まず、商標法の規定によると、以下の標章は商標として使用してはならない:
(一)中華人民共和国の国名、国旗、国章、国歌、軍旗、軍章、軍歌、勲章等と同一又は類似するもの及び中央国家機関の名称、標識、所在地の特定地名又は代表的な建築物の名称若しくは図形と同一のもの;
(二)外国の国名、国旗、国章、軍旗等と同一又は類似するもの。ただし、当該国の政府の許諾を得ている場合は、この限りでない;
(三)国際機構の名称、旗、徽章等と同一又は類似するもの。ただし、同機構の許諾を得ている場合、又は大衆の誤解を招かない場合は、この限りでない;……(省略)
(六)民族差別扱いの性質を帯びたもの;
(七)欺瞞性を帯び、大衆に商品の品質等の特徴又は産地について誤認を生じさせやすいもの;
(八)社会主義の道徳、風習を害し、又はその他の悪影響を及ぼすもの。
前述の規定からみて、有名人の氏名は登録を禁止される商標に該当しない。
『最高人民法院による商標権授与・権利確認行政案件の審理の若干問題に関する意見』には、「人民法院は、関連標章がその他の悪影響を及ぼすか否かを判断する際に、当該標章又はその構成要素が社会公共の利益及び公共秩序に対して消極的、マイナイスの影響を及ぼすか否かを考慮すべきである。……」と規定している。
従って、実務において、関連機構は有名人の氏名が商標登録に用いられた場合、通常、「有名人」の知名度、関連分野における権威や重要性や影響力、関連氏名の使用が大衆の誤解を招き、これによって混同を生じさせ、誤って購入してしまうか否かなど具体的な状況に基づき、関連状況が上述の「八」でいう「その他の悪影響を及ぼすもの」に該当するか否かを総合的に判断する。
「その他の悪影響を及ぼすもの」と認定した場合は、関連商標の無効を宣告することができる。但し、関連部門は総合的な判断により、特定の人の氏名権、肖像権、著作権など公共の利益以外のもののみが損なわれたと認定した場合、「その他の悪影響を及ぼすもの」と認定しない。
それにもかかわらず、『商標法』の規定によると、被害者は、自分の氏名権が侵害されたと判断した場合、それを理由に商標無効宣告を請求することができる。但し、この場合に、商標登録日から5年以内に関連登録商標の無効宣告を請求する必要がある。
以上のことから、有名人は自分の氏名が商標に登録された場合、商標審査委員会に対し登録商標の無効宣告を請求することができる。商標審査委員会から登録商標の無効宣告を行わない決定が下された場合、裁判所に対し行政訴訟を提起することができる。当然、行政訴訟において裁判所の判決でも認められないとしても、関連被害者は依然として民事訴訟を提起することにより合法的権利を守ることができる。例えば、権利侵害行為の停止、侵害による影響の除去、損害賠償を請求するなど。但し、氏名が希少性を有しない場合に、民事訴訟において氏名権侵害の主張が行われた場合、裁判所は当該氏名の知名度、影響力などの要素に基づき総合的に判断する。
以上
※「陳先生の法律事件簿」の過去記事は、 「国別情報一覧」 よりご確認ください。
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- 【掲載元情報】
- GPパートナーズ法律事務所 パートナー弁護士 陳 文偉
- [略歴]
上海復旦大学卒業後、1992年日本に留学。
1995年から1999年まで九州大学法学部にて国際経済法を専修。
日本滞在中から日系企業に対し中国に関する法律相談や法務セミナーを実施。
1999年帰国後、活動の中心を上海とし現地の日系企業に対し法律サービスを提供。
中国における会社設立・M&A・清算、PL問題、労働訴訟等、日系企業の法的課題を多く解決。
[所属]
中華全国弁護士協会会員、中華全国弁護士協会経済法務専門委員会委員