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2016.10.14

中国中国【中国】陳弁護士の法律事件簿㉖「雇用企業はオファーを撤回できるか」
【中国】陳弁護士の法律事件簿㉖
雇用企業はオファーを撤回できるか

甲はヘッドハンティング会社を通じてA社から面接の機会を得た。数回の面接後、A社は甲に対し「採用通知書」を出した。「採用通知書」には、「厳正なる選考の結果、貴殿を採用することを決定いたしましたのでご通知申し上げます。」などと記載するとともに、労働契約期間、賃金待遇を明記し、かつ、甲に対し元の勤め先の退職証明書などの書類の提出を要求した。
 
しかし、A社は「採用通知書」を出した後、甲が長期出張に対応できず、当該職務には不適任であることに気づき、不採用と決定した。甲はこの決定を不服として、労働仲裁委員会に対し仲裁を申請した。労働仲裁委員会は、甲の仲裁請求が労働仲裁委員会の受理対象ではないことを理由に受理しなかった。甲は裁判所に訴訟を提起した。
 
 
『分析』


1、『労働法』及び『労働契約法』では、採用対象者と雇用企業が労働契約の締結について交渉する場合の権利義務を明確に規定していない。従って、実務において、意見が一致してない。

1)一部の労働仲裁機関は、「オファーに関連する紛争は労働仲裁機関の受理対象ではない」と判断し、受理しない。

2)直接裁判所に訴訟が提起された後、一部の裁判所は、「オファーに関連する紛争は雇用企業と労働者の労働契約締結により生じる紛争に該当し、『労働争議調停仲裁法』に基づき労働紛争案件に該当する」と判断し、労働仲裁手続きが行われていないことを理由に、却下する。

3)実務において、多くの裁判所は、通常、「オファーは性質上、雇用企業と採用対象者が労働関係を構築するための申し込みに該当する。雇用企業は信義誠実の原則に違反した場合、契約締結上の過失責任を負う。」と判断し、オファーに関連する紛争について、『民法通則』及び『契約法』に基づき判決を下す。

2、『契約法』第42条によると、当事者は契約締結において信義誠実の原則に違反する行為を行い、相手方に損害を与えた場合、契約締結上の過失責任に基づく損害賠償責任を負わなければならない。

3、本件において、裁判所は、「A社は採用通知書を出した後に、甲が長期出張に対応できず、当該職務に不適任であることに気づき、不採用と決定したことから、A社には明らかに過失があり、信義誠実の原則に違反している。A社は、これによる甲の損害について賠償責任を負うべきである。」と判断した。

4、法に従い、雇用企業は自ら従業員を募集し、企業の必要性に応じて応募者を総合的に評価した上で、採用の可否を決定する権利が与えられているが、雇用企業は評価方法、手段などにおいて、慎重、信義誠実、合理性の原則を旨とし、労働者の利益及び合理的信頼を保護すべきことに注意すべきである。
従って、雇用企業は採用通知書において、虚偽履歴の提出や職業倫理の低下など、採用を取り消す理由を詳しく明記し、さらに雇用企業が労働契約の締結前に無条件に採用を取り消すことができるように、性質上申し込み要請に相当するオファーを出すべきである。

 注:
1、申し込みとは、当事者の一方が相手方と契約を締結しようとする意思表示を指す。原則として、相手方の承諾によって契約は成立する。規定通りに履行しない場合は、相応の責任を負う。

2、申し込み要請とは、他人に契約の申し込みをさせようとする意思表示を指し、顧客に送付する価格表、競売公告、入札参加募集公告、募集株式説明書、商業広告などを含む。

以上


※「陳先生の法律事件簿」の過去記事は、 「国別情報一覧」 よりご確認ください。


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【掲載元情報】
GPパートナーズ法律事務所 パートナー弁護士 陳 文偉
[略歴]
上海復旦大学卒業後、1992年日本に留学。
1995年から1999年まで九州大学法学部にて国際経済法を専修。
日本滞在中から日系企業に対し中国に関する法律相談や法務セミナーを実施。
1999年帰国後、活動の中心を上海とし現地の日系企業に対し法律サービスを提供。
中国における会社設立・M&A・清算、PL問題、労働訴訟等、日系企業の法的課題を多く解決。
[所属]
中華全国弁護士協会会員、中華全国弁護士協会経済法務専門委員会委員

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