2016.07.01
- その他のアジア【アジア】森・濱田松本法律事務所 アジアニュース/第11回 『タイ:競争法改正法案の閣議決定』
- 【アジア】森・濱田松本法律事務所 アジアニュース/第11回
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本レポートは、東南・南アジア各国のリーガルニュースを集めたニュースレター「MHM Asian Legal Insights 第58号(2016年6月号)」より、その内容の一部を転載しています。今後の皆様の東南・南アジアにおける業務展開の一助となれば幸いに存じます。
タイ:競争法改正法案の閣議決定
タイでは、1999年に競争法(Trade Competition Act B.E.2542(1999))(「現行法」)が制定・施行されています。
これにより、カルテル等の競争制限行為及び事業者による市場支配力の濫用行為が禁止され、企業結合に関する事前届出制度も設けられましたが、これまで運用が活発に行われているとはいえない状況でした。
筆者らが認識している範囲では、タイにおける競争法の規制当局である取引競争委員会が問題ありと判断し、刑事事件として捜査が行われた事件が1件あるのみで、この件も最終的に起訴されるには至りませんでした。
このような低調な運用の背景には、現行法において下位規則で定めると規定されている具体的手続がいまだに定められていないこと、取引競争委員会の独立性及び予算が十分ではなかったこと等の事情があると指摘されています。
この状況を改善するため、2016年2月2日、競争法の改正法案(「改正法案」)が閣議決定されました。
現時点では改正法案自体は公表されておらず、その詳細は明らかになっておりませんが、本レターでは、現在公表されている改正法案の概要が記載された閣議資料をもとに、改正法案に盛り込まれていると考えられる主な項目をご紹介します。
1 取引競争委員会の独立性強化
改正法案では、競争法の積極的な適用及び市場の透明性・公正性の確保を目的として、タイにおける競争法の規制当局である取引競争委員会の独立性確保及び監督権限強化のための方策が規定されています。
具体的には、取引競争委員の常勤化、同委員の選考手続の透明化、取引競争委員会に割り当てられる予算の増額等が規定されています。
2 事前届出制度の手続を定める下位規則制定の義務付け
上記のとおり、現行法の下では下位規則において定めるものとされている事前届出制度の具体的な要件・手続がいまだに定められていなかったため、同制度は実際には運用されていませんでした。
改正法案では、早期の運用開始を実現するため、取引競争委員会に対し、改正法案が施行されてから1年以内に、企業結合に関する事前届出制度の具体的な要件・手続を定めた規則を制定することが義務付けられました。
3 域外適用の導入
改正法案では、新たに域外適用に関する規定の新設が予定されています。
これにより、タイ国外において行われた事業者による競争法違反行為についても、当該違反行為によってタイの市場に競争制限的な効果が及ぶ場合には、タイ競争法が適用され、刑事罰又は行政罰が科せられることになります。
4 刑事罰以外の制裁の導入
現行法では、競争法違反の制裁として刑事罰のみが定められていますが、刑事罰を科すためには裁判手続を経る必要があるため、取引競争委員会が柔軟に制裁を課すことを妨げているとの指摘がなされていました。
この指摘を踏まえて、改正法案では、競争法違反の罰則として新たに行政罰(違反行為が行われた年の売上高の20%に相当する金額が上限とされています。)が導入されることになりました。
これにより、取引競争委員会は、裁判手続を経ることなく、自らの判断により違反者に対して制裁を課すことが可能となります。
5 リニエンシー制度の導入
改正法案では、競争制限行為の早期発見及び解明を目的として、価格カルテル、入札談合等のいわゆるハードコア・カルテルに関し、リニエンシー制度の導入が予定されています。
同制度に基づき競争法違反行為を取引競争委員会に申告することで、制裁の減免が認められることになりますが、現時点ではその手続の詳細は公表されておりません。
6 国営企業への適用拡大
現行法では、すべての規制について国営企業は適用対象外とされていましたが、改正法案では、民間事業者のみならず、すべての国営企業が適用対象とされています。
ここでいう国営企業とは、(i)政府によって保有されている政府機関又は事業体、(ii)50%以上の資本が政府によって出資されている会社又は登録パートナーシップをいい、国防、公共事業又は公益事業に従事する国営企業は除くものとされています。
もっとも、閣議資料では、「国防、公共事業又は公益事業」の具体的な定義は記載されておらず、適用対象から除外される国営企業の範囲は必ずしも明確ではありません。
改正法案は、今後法制委員会及び暫定国会での審議・可決を経た上で施行されることが予定されています。
報道によると、政府は2016年中の施行を目指しているとの情報もありますが、現時点では施行時期は必ずしも明確ではありません。
改正内容及び時期について、今後の動向を引き続き注視する必要があります。
以上
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- 【掲載元情報】
- 森・濱田松本法律事務所アジアプラクティスグループ 作成