2016.04.26
中国【中国】陳弁護士の法律事件簿㉓ 「携帯電話を利用して従業員の位置情報を取得してよいか?」
- 【中国】陳弁護士の法律事件簿㉓
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携帯電話を利用して従業員の位置情報を取得してよいか?
A社と電話会社は、携帯電話のGPS測位機能を含む通信サービスの提供に関わる「通信業務サービス協議書」を締結した。
A社は、販売業務に従事する従業員に対しGPS機能付きの携帯電話を支給、従業員の同意を得た上で携帯電話のGPS測位機能を利用し位置情報を取得し始めた。
A社は、従業員である張さんに対してGPS測位を行ったところ、張さんが業務時間中に業務上必要なエリアにいない状況を把握した。
そこで、A社は張さんに対し労働契約終了通知書を提出し、免職処分とした。
張さんは、A社がプライバシーの権利を侵害したことを理由に、裁判所に訴訟を提起した。
『分析』
プライバシーの権利とは、自然人の私生活上の自由、及び個人の情報や秘密が法による保護を受け、他人による違法な侵害や個人情報の把握、収集、利用、公開を禁止する人格権の一つをさす。
権利主体は、《他人が自身の私生活にどの程度まで介入できるか、自身のプライバシーを他者に公開できるか否か、また、誰にどの程度まで情報を公開できるか》などに対して決定権を有している。
『権利侵害責任法』第2条には、「民事上の権利を侵害した場合、本法に従い権利侵害責任を負わなければならない。
本法にいう民事上の権利は、……プライバシーの権利を含む。」と規定している。
従って、個人のプライバシーの権利は、中国の法律の保護範囲に属している。
プライバシー権利の侵害は、一般的な権利侵害行為に該当し、以下の4つの構成要件を満たす場合に成立する。
①権利侵害者に主観的過失がある、②違法行為を行った、③プライバシー権利の侵害により損害が生じた、④権利侵害行為と損害の間に因果関係が存在する。
本件の場合、A社は会社として従業員を管理する必要があり、張さん等の従業員から承認を得た上で、勤務時間内に携帯電話のGPS測位機能を利用し従業員の位置情報を取得していた。
よって、当該行為については、A社には主観的過失がないと言える。
また、張さんがA社から支給された携帯電話を使用する行為は、A社の管理に従うことに対し同意を示しているとも言える。
携帯電話のGPS測位機能を利用して取得する情報は、張さんの位置情報にとどまっており、プライバシー情報には及ばず、客観的にみて張さんに対し実害は与えていない。
なお、中国の社会的な認識では、会社が携帯電話により従業員の位置情報を取得する行為は許されていないわけではない。
以上のことから、A社の行為は主観的にも客観的にも権利侵害行為の構成要件を満たさず、プライバシー権利の侵害にはなっていない。
従って本件では、A社は民事責任を負う必要はないと言える。
ただし、中国において企業が内部管理を強化するため従業員の個人情報を取得する際は、以下の事項に十分留意しなければならない。
①事前に関連規則を制定する、②個人情報を取得する行為は勤務時間内及び業務遂行に必要な範囲内に限る、③取得する情報は従業員のプライバシーに関わらない項目に限る。
以上
※「陳先生の法律事件簿」の過去記事は、 「国別情報一覧」 よりご確認ください。
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- 【掲載元情報】
- GPパートナーズ法律事務所 パートナー弁護士 陳 文偉
- [略歴]
上海復旦大学卒業後、1992年日本に留学。
1995年から1999年まで九州大学法学部にて国際経済法を専修。
日本滞在中から日系企業に対し中国に関する法律相談や法務セミナーを実施。
1999年帰国後、活動の中心を上海とし現地の日系企業に対し法律サービスを提供。
中国における会社設立・M&A・清算、PL問題、労働訴訟等、日系企業の法的課題を多く解決。
[所属]
中華全国弁護士協会会員、中華全国弁護士協会経済法務専門委員会委員