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2012.09.11

その他のアジア【アジア】アジア通信/第四回 番外編1 -アジアのクルマ事情-
アジア通信/第四回
 アジア通信第一回目から第三回目までと堅い話が続きました。お付合い頂き有り難うございます。そろそろ読者の皆様もお疲れになっているかもしれない、このまま堅い話が続くと読まれなくなってしまうかもしれない、そんなことも心配になってきました。そこで、今回は、少し柔らかいテーマ「アジアのクルマ事情」を取り上げます。
 ある国・地域でどんなクルマが走っているか、そこには、その国・地域の経済状況だけでなく、その国・地域の時代の雰囲気・文化・価値観など様々な要素が反映されていると感じます。
 例えば、今の日本の街中のクルマを見ていて感じるのは、所帯染みたクルマが多いということです。エンジンがそんなに大きくない7人ぐらい乗れるワンボックスカーや1リッタークラスのクルマが沢山走っています。反面、ツードアのスポーティなクーペを見かけることは多くありません。20年ぐらい前のバブル時代の頃は、いざ知らず、今は絶滅寸前といった状況です。今の日本で、この絶滅危惧種に乗っているのは50歳以上の方々、いや60歳以上のご年配の方々が中心です。
 所帯染みたクルマが多い日本ですが、さすがは経済大国でもあり先進国でもありますので、高級車から庶民のクルマまで、外車から国産車まで、幅広く様々なクルマが走っています。
 では、日本以外のアジア各国のクルマ事情はどのようになっているのでしょうか。

1.中国 -面子-

 真っ先に取り上げる必要があるのは中国です。中国は現在世界最大の自動車市場であるからです。中国における年間新車販売台数は約1,850万台(2011年中国自動車工業協会)で、第二位のアメリカ約1,280万台(同年ジェトロ)を大きく引き離しています。ちなみに、日本は約421万台(同年暦年自販連)です。
 このような状況ですので、大手自動車メーカーは、中国人のクルマに対する嗜好を無視することが出来なくなっていると想像します。
 
 「大きくて格好がいいクルマに乗らないと”面子”が潰れる。」、上海在住の中国人の言葉です。この言葉に中国人のメンタリティー・嗜好が凝縮されています。彼の愛車は、BMW520です。
 中国人のメンタリティーを理解する上で、“面子”という概念はとても重要です。中国人は面子という言葉をよく使います。面子とは、中国人の美意識の核となる概念のようで、責任を果たす、対面を保つ、格好をつける、見栄を張る、取り繕う、きっぷがいい、など軽重様々な意味・ニュアンスを持つ言葉です。
 面子を大事にする中国人にとって、クルマの大事な要素は、大きいこと・格好いいことです。上海や北京の街中でも、大きなクルマが目立ちます。ベンツのSクラス・BMWの7シリーズ(ベンツ・BMWの最上級モデル)を沢山見かけます。BMWの7シリーズは、大阪以上に沢山走っているのではないでしょうか。反面、中ぐらいのクルマの少なさが日本と対照的です。
 エンジンの大きさも日本と対照的です。Sクラス・7シリーズのエンジンは、日本では5~6リットルと大きいものが主流であるのに対し、中国では3リットルぐらいが主流です。
  
 中国人は、車のブランドや大きさなど目に見える部分に見栄を張るが、エンジンの大きさなどの見えない部分には見栄を張らないようです。


ベンツ S320 AMG 日本ではまず見ることができない逸品である。2012年2月大連にて筆者撮影。

 これに対し、高級車に乗る日本人はエンジンの大きさにもこだわります。日本の国内を走るうえでは、大きなクルマであっても、5~6リットルもの大きなエンジンは必要ありません。実用性の観点からは全く無意味、要は見栄です。目に見えない部分にも見栄を張る、日本人の”面子”は中国人を超えているかもしれませんね。
 
 

2.韓国 -憧れのクルマが身近に-

 筆者は十数年前に韓国に一度行ったことがあるだけですので、最近の韓国のクルマ事情を知りません。しかし、あえて取り上げます。以下の写真(左側)は、少し古いベンツのEクラスに見えますが、そうではありません。韓国の起亜自動車(KIA)のOPIRUSというクルマです。参考までに、本物のEクラスの写真を右側に掲載しました。
 筆者が今年(2012年)の2月に上海に行った時に、このクルマを発見しました。その後、ネットで調べたところ、韓国製であることが分かりました。
 読者の皆様もベンツを買う時は間違わないようにどうかお気を付けください。
 
  
KIA OPIRUS(インターネットの写真を転載)              ベンツ Eクラス(インターネットの写真を転載)
 

3.インドネシア -日本車王国・渋滞王国-

 一人当りGDPが3,000ドル超えると自動車が普及すると、どこかで聞きましたが、インドネシアはそんな状況です。インドネシアの一人当りGDPは約3,500ドル(名目、2011年)で、首都ジャカルタの街中は、クルマで溢れ、激しい交通渋滞が日常化しています。
 インドネシアにおける日本車のシェアは極めて高く(圧倒的No.1)、日本国内における日本車シェアをはるかに超えています。ちなみ、ISUZUの乗用車は日本では現在販売されていませんが、こちらではISUZU PANTHERというクルマが販売されています。


 ところで、ジャカルタの大渋滞は地下鉄が無いことが原因と言われています(信号の少なさも原因ですが)。地下鉄が無い理由として、インドネシアでは民主化が進んでおり、地下鉄を掘るための地権者の同意を得ることが難しい、あるいは、土地の権利関係が錯綜しており誰が地権者か分からなくなっている、との意見があります。また、国や地方政府の意思決定機能そのものに何か問題があるように感じます。


ISUZU PANTHER 
2012年6月ジャカルタにて筆者撮影。
  インドネシアでは、ジャカルタの渋滞以外にも、国土全域で道路整備が遅れているという問題があります。
地下鉄・道路網などの交通インフラの整備の遅れが、自動車の更なる普及の足枷になりそうです。
 
 

4.シンガポール -頭文字D(イニシャルD)-

  日本では庶民でもクルマを買うことが出来ますが、シンガポールではほぼ不可能です。とにかくクルマが高いのです。その大きな原因がCOE(Certificate Of Entitlement)です。COEとはクルマを所有する権利のことで、その価格は約430万円(1.6リットル以下、2012年6月第二回目シンガポール陸運局入札結果より、1シンガポールドル=63円)もします。他にも輸入税その他のコストがかかります。車両本体価格100万円の小型車でも、COEその他諸々のコストを加えると約700万円!にもなってしまいます。そんな、シンガポールですが、フェラーリ、ランボルギーニ、マセラティなどの超高級スーパーカーをよく見かけます。東京以上です。
  本題はここからです。シンガポールでも、日本車は高いプレゼンスを誇っています。シェアの高さもさることながら、シンガポール人は日本人よりも日本車を愛していると感じます。筆者がそのように感じる理由をお示ししましょう。以下の写真をご覧ください。左から、三菱ランサー、ホンダシビックです。
    
  ①三菱ランサー                              ②ホンダシビック  

いずれも、2012年6月シンガポールにて筆者撮影
 
  いずれも、”走り屋”のパーツを装着しています。エアインテーク(空気取り入れ口、左側三菱ランサーのボンネット)、エアスポイラー(翼のようなもの、左側三菱ランサー・右側ホンダシビック両方)、ブレンボ製ディスクブレーキ(ブレンボはイタリアの高級ブレーキメーカー、写真には写っていないが右側ホンダシビック)などです。そのようなクルマを筆者が探し当てて撮影したわけではありません。日本車のうちのかなりの割合が”走り屋”仕様になっているのです。
  日本では、サンダル代わりに乗られているフィットもこちらでは”走り屋”仕様です。かつてはホンダの代名詞であったシビックは、日本仕様の生産が中止されているのに対し、こちらでは高い人気を誇ります。日本の若い人はホンダに対して、所帯じみたクルマというイメージしか持っていないと思いますが、こちらでは、昔の日本同様、スポーティなクルマというイメージです。
  日本車は、ベンツやBMWと比べると手頃な値段であり、買った後に自分流に改造して楽しむ、大人のプラモデルのようなものです。韓国車も日本車以上に手頃ですが、日本車のように改造されているわけではありません。韓国車よりも、日本車の方が深く愛されているのです。シンガポール人が日本車をこよなく愛していること、ご理解頂けましたでしょうか。
  日本車がこのようにシンガポール人に愛される背景には、漫画やアニメなどの日本のサブカルチャーの影響があるのではないかと思います。特に、しげの秀一氏の漫画「頭文字D(イニシャルD)」や日本のドリフト文化の影響が大きいのではないかと想像します。
 

5.タイ -タイ人の異常な愛情-

  タイにおける日本車のシェアは他国車を引き離して圧倒的No.1です。そんなことよりも、特筆すべきは、タイ人の日本車に対する愛情の深さです。シンガポール人をも超えています。筆者は、世界各地を知っているわけではありませんが、タイ人は世界で一番日本車を愛している人達であると確信しています。読者の皆様もバンコク市内に30分以上いれば、このような確信に至ることになるのではないでしょうか。
  以下の写真は、いずれもバンコク市内のタクシーを撮影したものです。車体後部に巨大なエアスポイラー(翼のようなもの)が装着されています。これらも筆者が探し回って撮影したものではなく、バンコク市内の日常的な風景なのです。
 

いずれも、2012年6月バンコクにて筆者撮影
 
  バンコク市内のタクシーは、ほとんど全てトヨタカローラです。装備はタクシーによって異なりますが、エアスポイラーの他に、フロントスポイラー(車体前部の下側につけられた羽のようなもの)や”走り屋”風マフラーも珍しくありません。中にはエアインテークを装着したカローラもあります。
  では、バンコクの路上がツーリングカーレース状態かといえば、決してそんなことはありません。タクシーの運転は荒くも速くもありません。ごく普通です。野獣の咆吼のような排気音を聞きながら、時速30キロで走るバンコクタクシーの旅、少しトホホな感じです。
ところで、バンコクタクシーの装備の数々、これらは一体、誰の意思とお金で装着されているのでしょうか。また、どのような意図によるものでしょうか。筆者は何も知りません。また、タクシーの装備が”走り屋”風であれば、タクシーの稼働率が上がるようにも思えません。全ては謎です。バンコクのタクシーの背後にも「頭文字D(イニシャルD)」などの日本のサブカルチャーの影を感じます。
 

6.漫画のすゝめ

  以上、アジア各国のクルマ事情を見てきました。シンガポールとタイのクルマ事情には、市場としてのアジアを目指す日本企業にとって、大きなヒントがあると思います。
 誤解を恐れずにいうと、アジアの市場では、価格・機能や性能・デザイン、これらの個々の要素をバラバラに追求して勝負してはならない、ということです。
  価格に関しては、低価格帯は台湾勢・韓国勢の主戦場です。勝者不在の泥沼の価格競争に参加することが得策とは思えません。高価格帯はヨーロッパ勢の主戦場です。ヨーロッパ勢に匹敵するラグジュアリーなブランドイメージを確立することは並大抵ではありません。
  機能や性能は日本企業の主戦場かもしれませんが、過剰機能・性能はアジアだけではなく日本人にも受け容れられているのか、疑問です。
  デザインもそれ自体では、良し悪しの掴みどころがありません。筆者はそう感じます。当たるも八卦当たらぬも八卦のデザインを、反復継続する企業活動の軸に据えることに抵抗を感じます。デザインにも確たる軸が必要です。
  では、どこで勝負すべきか。それは世界で受け容れられ、世界をリードする日本のサブカルチャーが持つ世界観です。この世界観に沿った商品で勝負するということです。「頭文字D(イニシャルD)」に出てきそうなクルマはその典型です。キャラクター商品に限りません。
サブカルチャーそれ自体の市場規模はさておき、その世界観を象徴するような商品を含めた潜在的な市場規模は、とても大きいと感じます。
 
  
 市場としてのアジアを目指される、日本企業の経営者やマーケティング担当者の方々は、日本の漫画を読み漁り、その世界観を堪能されてみては如何でしょうか。
【掲載元情報】
山田ビジネスコンサルティング株式会社 専務取締役シンガポール支店長 東 聡司
[略歴]
山田ビジネスコンサルティング(株)創業以来、日本国内の中堅中小企業の再生支援業務に携わる。2012年1月~2月にかけて中国進出日系企業の経営状況を調査。2012年4月のシンガポール支店長就任後はタイ・インドネシア・ベトナム等ASEAN各国に進出している日系企業の経営状況を調査。経営の観点から日本企業のアジア進出をサポートする。

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