2015.01.14
- その他のアジア【イスラム】Hopewill《THE MENASA/イスラム市場通信》第1回 『おかき』でハラル認証を取得
- 【イスラム】Hopewill《THE MENASA/イスラム市場通信》第1回
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中東地域や東南アジアの富裕者・中間所得層の増加、東南アジアからの訪日ビザの規制緩和、2020年の東京オリンピック開催決定に伴い、多くの日本企業がイスラム市場に目を向けている。ハラルビジネスを検討する材料として、イスラム教徒に向けて日本の技術やおもてなしを発信する企業の取り組み事例をご紹介する。
今回は、ハラル認証を取得したおかき、「東京あられ」の製造・販売を行う王様製菓株式会社にお話を伺った。
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Q.御社では、イスラム市場に対してどのような取り組みをされているのですか?
A.当社は、大正13年に東京・浅草で創業したおかきのメーカーです。現在国産の米菓としては初めてハラル認証(NAHA認証)を取得した「東京あられ(海苔味・唐辛子味)」を製造・販売しております。
Q.どのようなきっかけでこのお取り組みを始められたのですか?
A.当社は大戦以降、海外のマーケットへの輸出を多く行っていました。戦後間もなく日本に駐在していた米兵がアメリカに戻り、自国でも食べたいというニーズがあり、ハワイやアメリカへの輸出が始まりました。アメリカでの販路拡大に取り組んでいる中で、現地でユダヤ教の「コーシャ」(ユダヤ教で定める食べ物に関する規定のこと)に出会ったのです。コーシャの認証を取れれば、面白いのではないかと考えていたのですが、コーシャの認証は非常に特殊で取得のハードルがとても高かったのです。是が非でもチャレンジしたいところでしたが、マーケット参入の難しさ故に、取り組めずにおりました。
そのような中で、近年これまでお付き合いのあった航空会社に対して機内食を提供しているケータリングの会社がアジアの同業企業と提携をしました。そこで、イスラム教徒のお客様に食べ物を提携する際は、ハラルの認証が必要だと知ったのです。当社でも、ハラルのおつまみを製造してはどうかという議論があり、様々な調査を開始したのです。調べてみると、日本にもハラルの認証団体が2つ存在するということが分かりました。その後も関係各所に話を聞いたり、実際に自社で調査をする等して、イスラムに対する知見は持ったものの、取り組むためのコストを含めてハードルが高く、難しいと感じていたのです。しかし、いつかビジネスになるかも知れないので、きちんと勉強はしておこうと数年かけて情報収集をしておりました。
すると、1年半前あたりから、政府や様々な組織が「イスラム」というキーワードに着目し、多くの情報が流れるようになりました。当社としても、それまでイスラムに関しては調査を続けていたので、何かできるかも知れないと感じ、日本アジアハラル協会(NAHA)のサイード先生を紹介してもらったのです。当社の商品は米菓であるため、元々豚由来のものはほとんどなかったのですが、アルコールが少し含まれていました。サイード先生に相談したところ、工場のコンタミを排除し、成分を調整すれば、認証が取れるということが分かりました。そこで、工場に特別なラインを作り、器具もハラル専門のものを使用して、ハラルのおかき造りの取り組みが始まったのです。工場のラインや設備の準備、様々な調査、サイード先生による指導等、事前の準備には約半年を要しました。社内で2種類の商品を開発し、1年前に正式に認証を取得したのです。
Q.「東京あられ」はどのようなポジショニングにしよう考えておられるのですか。
A.基本的には、インバウンドの商品として考えています。観光に来たイスラム教徒が自国の家族や友達に買って持って帰ることが出来るお土産商品として位置づけているのです。日本には、まだまだハラルのお土産商品は多くありません。「東京あられ」は、メイドインジャパンの商品でハラルの認証を取得しているというところにこだわった商品なのです。東南アジアや中東では、日本産の食品や製品に対する信頼は非常に厚いです。そういった人々に現地でも手に入る日本風を装った「なんちゃって日本食品」とは一線を画した本物の日本の味を楽しんでもらいたいと思っています。
Q.御社では「東京あられ」のターゲットとなる地域は設定されておられるのですか?
A.特に地域としては絞っていません。一言で「ハラル認証」といってもイスラム圏の人々は非常に多様であり、数ある認証の中でその認証を信じるかどうかは個人の信仰度によって判断が分かれます。どの認証を選ぶかの線引きは個人によって様々なのです。食文化を見ても、イスラム教徒でもお酒を飲む人がいたり、豚肉を食べる人もいるので、ターゲットを国や地域で絞るということはしていないですね。
Q.「東京あられ」は外国人向けの味に造られているのですか?
A.「東京あられ」の味はイスラム圏の人々に気に入って頂けるよう、少し甘めにしてあります。「東京あられ」の唐辛子味にも甘さが含まれています。イスラム圏では、味の濃い食べ物が多いので、甘いものを好む人が多いようです。実際に製造をする段階では、国内にいるイスラム教徒の留学生に試食をしてもらったり、マレーシアやインドネシア、トルコに出張にゆき現地の人の味覚を調査して、味をどのように調整するかを決めました。
材料に関しては、米は問題なく使用できるのですが、醤油はハラル認証を取得している醤油メーカーの製品を使用しています。なので、工場では別の商品で使っている醤油のコンタミの管理が大変でした。みりん系の味付けも駄目ですし、砂糖も一部イスラムの戒律にふさわしくないものがあるので、1つ1つの材料を吟味してイスラムの人が安心して食べることができるように製造しました。
Q.どういったところで販売されておられるのですか?
A.最初に販売をしてもらったのは、浅草の評判堂というお菓子のお店です。社長が観光協会に携わっておられるお店で、浅草地域もムスリムを受け入れていかなければならないと感じておられ、受け入れ環境を整える中の一環としてハラルおかきの販売を考えて頂くことが出来ました。今もコンスタントに売り上げを伸ばしています。その他では、関西空港、成田空港、羽田空港でも販売しています。空港では、ビジネスマンが中東を始めとするイスラム圏に旅立つ際のお土産として買ってもらっているようです。これまでは、イスラム圏に行く際に現地の方が安心して食べることができる食品のお土産がなく、困っている人が多かったようです。また、日系の航空会社で機内のおつまみに採用頂き、一部路線でサービスしていただいております。
Q.この取り組みの中で、一番大変だったことは何ですか?
A.これまで、自社の工場の従業員は、ムスリムの世界に全く触れた事がない人たちばかりでした。そのような状態で、いきなりパキスタンの先生が来られて指導が始まったのですから、一番苦労したと思います。
極論にはなりますが、ハラル認証の場合、工場でイスラムの戒律に沿わないことが発生しても、アレルギーが起こったりすることはないので消費者には分かりません。一度サイード先生に言われた「アッラーの神が見ているから、きちんと決められたことに則って製造をして下さいね。」という言葉が非常に印象に残っています。日本人は良く、「お天道様が見ているから」という様な言い回しをしますが、自分の良心に従って生きる部分では、イスラム圏と日本では非常に親和性があるのかも知れません。
サイード先生には、ムスリムの基本的な考え方から講習を受け、工場一体となって勉強をさせて頂きました。実際のお祈りの様子を見せて頂いたり、ハラルの考え方を教えて頂いたり、まずはイスラムの文化を理解するところからスタートしたのです。以前工場でパキスタン人のパートの方に働いて頂いていたのですが、イスラムの文化は皆が理解しているので全く違和感なく対応することができていました。また、マレーシアの小学生が日本に来た際に、日本の学校との交流のお手伝い等をさせて頂いていたのですが、このような活動を通じて異文化に対する理解が広がりました。
外国人に対して日本人と同じように接することができるようになった、という従業員も増えました。パキスタンの留学生の方たちが蔵王にスキー旅行に行った時には、おやつとして東京あられを使っていただきました。ヒシャブをかぶったイスラム圏の女子留学生の皆さんが、はじめて雪やスキーに触れた時におやつに東京あられを食べていただいたのも大変嬉しい経験でした。
このような活動を通じてハラルへの取り組みをしたことが、従業員の成長に繋がったことは非常に嬉しく思います。
Q.パッケージが非常に印象的だったのですが、どのようなこだわりがあるのですか?
(参照:http://osama-do.co.jp/item/halal/index.html)
A.パッケージは、とにかく日本的な感覚のラベルを作ってもらうようにデザイナーにお願いしました。イスラム教徒だけでなく、お酒のつまみに、とビールと一緒に買って行かれる西洋方も多いようです。海外の皆様にとってわかりやすいパッケージにしたのが良かったのかも知れません。
Cool Japanの新しいイメージもありますが、まだまだ富士山、さくら、神社・仏閣といった日本のイメージは大きいと思います。
Q.今後イスラム市場に挑戦をされる方々にメッセージをお願いします。
A.まずは、徹底的にイスラム世界の勉強をした方がいいと考えます。イスラム教とは何なのか、彼らがどういうことを考えているのか、根本的なところを理解するべきだと思います。イスラム教の中にも様々な考え方がありますし、発展すれば中東問題や宗教戦争にも入っていく非常に複雑かつデリケートなテーマでもあります。
また、座学だけではなく、実際普通に生活しているイスラムの人々との交流も必要だとおもいます。
一言でイスラムを語るのはなかなか難しいからこそ、本当にイスラム教というものはどういうもので、どのような人々がいて、国ごと、地域ごとに宗教への考え方が異なることを理解していなければ、事業そのものの方向性を正しく導くことができません。このような事前準備なしに、統計上の計算で全世界のイスラム人口が沢山いるからといって、ただ単に認証を取れば物が売れるというような甘い世界ではないことを理解しておく必要があると思います。
皆さんで努力をして、日本の素晴らしい食文化をイスラムの人々に楽しんで頂けるようになったら大変嬉しいですね。
以上
【インタビュー協力企業】
会社名: 王様製菓株式会社
URL : http://osama-do.co.jp/
※本レポートは、Hopewill Group (Holdings)Ltdのメールマガジン「週刊イスラム市場」より一部修正のうえ、転載しています。
※ 本内容につきまして、無断複写・複製を禁止いたします。
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「THE MENASA/イスラム市場通信」は、今後ますます注目を集める地域のME(Middle East) 、NA(North Africa)、SA(South Asia) 市場およびイスラム市場について、様々な観点から情報を発信してまいります。
本レポートを通して、少しでもこの「MENASA」「イスラム」というキーワードが皆様にとって身近なものとなりましたら幸いです。
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