イスラム教徒が、旅行の際に気を配らなければならないのは、主に食事、その次は祈りの場所とされています。食事は豚由来のものを使用しないことが前提となり、いわゆるイスラム教に基づく規範で「許されたもの」という意味である「ハラル」であることが求められます。ハラルの食事を提供するレストランや、ハラル食品には国ごとに然るべき機関がハラル認証を行なっており、厳密には食肉の屠殺・加工・運搬に至るまで管理される必要があります。次に祈りについては、体を清め、女性はメイクなどを落とし、聖地メッカの方角へ向かい神と向き合う場所が必要となります。では、実際に日本を訪れたことがあるイスラム教徒はどんな印象を持ったのでしょうか。今回はマレーシア(クアラルンプール)、インドネシア(ジャカルタ)、UAE(ドバイ)で日本に旅行した経験のある方、複数名に取材を行いました。

マレーシアのLCC、エアアジアは定期的にプロモーションを行っており、マレーシアから東京・大阪・名古屋に往復2~3万円で行けるようになり、日本は身近な存在になりつつある。また、旅行ビザの緩和もあり、今後マレーシア旅行客の増加が見込まれている。
~マレーシアのイスラム教徒の声~
食事については、日本が非イスラム国ということもあり、ハラル認定マークがなくても食品にアルコールと豚肉が含まれていなければ問題ないという回答が大多数。よってイスラム教徒を迎える国は、必ずしもすべてのイスラム教徒が、厳格なハラルの規定にそったもてなしを求めているということではないという事実を知る必要があります。また「日本に流通する食品は原材料表示が日本語のみとなるため、英語併記があれば、ハラル食品でなくても、自分自身で判断し購入できる」という意見もありました。ハラル認証がなくても、自国で商品の原材料を確認し購入することに慣れているため、負担はかからないと考える人も少なくないようです。
また祈りの場所については、マレーシア国内では公共施設、オフィス内、ガソリンスタンド、ホテル等どこにでも祈り場所が設置されているため、イスラムの人達はどこでもお祈りできる環境にあります。日本でも、たとえばホテル等にお祈り用の部屋の設置など、もう少しお祈りができる施設があることで、充実した旅行ができるという声が多くありました。

インドネシアのホテルの天井に貼られたメッカの方角を示すガイド

メッカの方角や祈りの時間を確認する携帯アプリを利用する人も多い
~インドネシアのイスラム教徒の声~
「日本は非イスラム国であるため、食べ物や祈りに関して戒律が守れないことを前提に旅行をしている」という回答が大多数。つまりコーランの経典の中には、非イスラム国での滞在方法については厳しく記載がないということで、日本で旅行中の食べ物に関しては、「豚肉さえ口にしなければよい」という声もありました。
また祈りに関しても「できればお祈りはしたいと思うがお祈りの場所が無いことは承知している」という意見が多くありました。イスラム教徒は通常1日5回の祈りをしますが、できない場合は、複数回まとめて祈りをすることもあるため神経質になる必要はなさそうです。
もちろんインドネシアの人口2億4千万人すべてがこうした意見ではなく、厳格なイスラム教の教えに基づいて生活をする方もいますが、日本行きを検討するイスラム教徒はライトな考え方の方が多いようです。

JNTO(日本政府観光局)は厳格なイスラム教徒が安心して食事ができるレストランやモスクを紹介する冊子を発行し、日本へのイスラム教徒の誘致を進めている。
~UAEのイスラム教徒の声~
UAEから日本への旅行者は若者を中心に増加傾向にあります。UAEの若者は子どもの頃から日本のアニメのアラビア語吹き替え版を見て、日本社会の様子を学びながら育っているため、大人になっても日本に対して良い印象を持ち続けています。そんな若者の非イスラム国への渡航はやはりライトな感覚。豚肉やアルコールを排除し、自分で判断する人が多いようです。一方、中高年のイスラム教徒には、非イスラム国へ旅行に行きたくない、と考える人が少なくありません。やはりハラルフードが入手しにくいこと、礼拝場所が探しにくいことが挙げられます。概ねUAE人はイスラムの教えに忠実で「旅行中でもハラル食品を食べたい」という人が多く、そのような人は乳製品や果物を食べるか、自国から保存食品を持ってきて食べています。ちなみに2012年のニュースによれば、UAE人は海外旅行で1日平均3,270ドル、つまり約33万円(2014年4月の為替レート)を消費します。人口が少ないUAEですが、渡航者の消費力は魅力的です。