2013.10.29
- その他のアジア【アジア】アジア通信/第26回 フィリピン編④ 中堅中小企業進出のポイント
- 【アジア】アジア通信/第26回
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前回【第25回】は、3. フィリピン経済成長の道筋 (4) BPO 産業・OFW からの送金収入のフィリピン経済における存在感 まで説明しましたので、今回はその続きと、中堅中小企業進出に際しての留意点について述べていきます。
(5) 国内市場の成長・国内市場向け産業の発展
フィリピン経済の特徴は、個人消費の割合の高さです。
2012 年のフィリピンのGDP に占める個人消費の割合は70%に達しています。ちなみに、インドネシアは55%、タイは52%です。
個人消費の割合の高さは、貯蓄率の低さとコインの裏表の関係にあり、海外からの直接投資の少なさと共に、フィリピンの産業発展が遅れている原因の一つといわれています。
しかし、今後のフィリピンの経済発展において、貯蓄率の低さは従来ほどの制約にはならないと考えることが出来ます。
OFW からの送金収入はもちろん、BPO 産業も、製造業と比べると投資額が少なくて済みますので、貯蓄率の低さが産業発展の制約にはなりにくいからです。
また、所得に対する消費の割合の高さは、経済規模に比べて、消費市場が大きいこと、経済全体の成長率に比べて個人消費の伸び率が高いことも意味します。
以上により、フィリピンの場合、他の途上国のように、直接投資や貯蓄による投資というプロセスを経ずに、BPO 産業の発展・OFW からの送金収入⇒所得水準(購買力)の向上 ⇒ 国内市場の成長、というユニークな成長シナリオを辿る可能性があります。
言い換えますと、産業発展から消費市場の成長までのタイムラグが短い、更には、輸出型製造業の発展に先行して、国内の消費市場や内需型製造業その他の内需型産業が発展する可能性を持っていると言えそうです。
また、BPO 産業から派生する知識・知能集約型産業の発展可能性も持っていると言えそうです。
マニラの巨大ショッピングセンター「モールオブエイジア」内の
ユニクロ 2013 年5 月筆者撮影
4. 中堅中小企業進出に際してのポイント
(1) 最終消費者に自社の商品等を販売するために進出する場合
フィリピンは、経済規模・所得水準に比べて、消費が旺盛で、小売市場の規模が大きいといえます(以下の表参照)。
「世界国勢図会 2013/14 年版―世界がわかるデータブック」(矢野恒太記念会)、ジェトロ資料より筆者作成
フィリピンの流通形態は、他の東南アジア諸国同様、いわゆる伝統市場(個人零細商店など)が相応のシェアを占めている、全国を網羅する卸売業者が無いなど、日本と大きく異なります。
そのため、サービス業・小売業・最終消費者向け製品のメーカー等が、フィリピンの最終消費者に自社の商品等を販売するためには、消費者の購買力・嗜好だけでなく、フィリピン特有の流通形態、流通の各段階や各地域におけるプレイヤーの顔ぶれ・強み・弱み・属性・特徴を把握しておく必要があります。
また、流通の各段階におけるその商品の価格(競合の卸値なども)等を把握しておくことも必要です。
現地独特の流通形態の把握に加え、効果的・効率的な店舗の取得・開発等や外資規制の観点からも、フィリピンの消費市場を目指す場合には、良い現地パートナーと組むことが必要・重要と考えます。
(2) 製造拠点として進出する場合
製造拠点として進出する場合であっても、フィリピンの内需を取り込むことがポイントと考えます。
ジェトロ 在アジア・オセアニア日系企業活動実態調査(2012 年度調査)
2012 年12 月18 日より
フィリピンでは、産業集積がまだ進んでおらず、現地調達比率が低い状況にあります。
また、フィリピンは、島嶼国家であり、周囲を海で囲まれています。
これらの観点から、フィリピンは、輸出のための製造拠点としては、他の東南アジア諸国と比べると不利なポジションにあると考えます。
他方、フィリピンの国内市場は、人口動態、BPO 産業・OFW からの送金を通じた購買力の向上により、高い成長性を持っていると考えます。
そのため、輸出(または輸出企業に納品)のための製造拠点として、フィリピンに進出する場合であっても、将来的にフィリピンの内需を目指すことが望ましい方向性と考えます。
また、現地拠点において、マーケティング機能・営業機能を持つことが重要です。
なお、フィリピンの失業率は高く(12 年 7.0%6)、そのため、人件費の伸び率が低いという特徴があります。
失業率が高いのは、産業が未発達で国内の雇用機会が少ないことが要因です。
しかし、今後もフィリピンの人件費の伸び率が低いまま推移するとは思えません。BPO 産業や内需型産業の発展による雇用機会の増加を見込むことが出来るからです。
● ワーカー(一般工職)月額基本給 ● 賃金対前年ベースアップ率
ジェトロ調査(2012 年12 月~2013 年1 月)より ジェトロ資料「在アジア・オセアニア日系企業活動実態調査
(2012年度調査)2012 年12 月18 日」より
他国同様、フィリピンでも安い人件費だけを目指す進出は危険です。
製造業の場合でも、内需の増加を自社の売上増加に取り込み、上昇する人件費を吸収する、というサイクルを回していくことが必要です。
フィリピンは、BPO 産業・OFW からの送金収入を牽引車とする経済発展の可能性を持っています。
フィリピン進出成功のためには、フィリピンのユニークな成長サイクルに乗ることが重要です。
※「アジア通信」過去記事は 国別情報一覧 に掲載しています。
6 ジェトロ資料より

- 【掲載元情報】
- 山田ビジネスコンサルティング株式会社 専務取締役シンガポール支店長 東 聡司
- [略歴]
山田ビジネスコンサルティング(株)創業以来、日本国内の中堅中小企業の再生支援業務に携わる。
2012年1月~2月にかけて中国進出日系企業の経営状況を調査。
2012年4月のシンガポール支店長就任後はタイ・インドネシア・ベトナム等ASEAN各国に進出している日系企業の経営状況を調査。
経営の観点から日本企業のアジア進出をサポートする。