2013.06.06
- その他のアジア【アジア】アジア通信/第18回 インドネシア編 ④投資環境その2
- 【アジア】アジア通信/第18回
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今回も引き続き『インドネシア編』です。参考までに前回までの目次を掲載します。
1. 概況
2. 日本との関係
3. 投資環境
(1)小売・サービス市場・流通形態
(2)外資規制
(3)インフラ
(4)政治・行政・司法
今回は「3.投資環境」の続きから始まります。
3. 投資環境
(5) 産業集積
製造業の海外進出に当たり、進出先地域の産業集積の度合いは、極めて重要な意味を持ちます。コストの安さ以上に重要な意味を持っていると考えます。産業集積の度合いは、現地調達・現地販売の可能性を表し、現地調達・現地販売の可能性は、原材料・部品等の発注から商品・製品販売までのリードタイム短縮の可能性を表しているからです。
ジェトロ 在アジア・オセアニア日系企業活動実態調査(2012 年度調査)
2012 年12 月18 日より
インドネシアにおける日系企業の最近の現地調達割合は43%で、インドネシアでは産業集積がある程度進んでいることがうかがえます(上のグラフご参照)。但し、業種によって、集積度合いに大きなバラツキがあるものと想像します。インドネシア進出日系メーカーのうち2 割程度が自動車関連であり、この分野での調達割合とそれ以外の分野での調達割合は大きく異なることになると思われます。
また、インドネシアは広大な島嶼国家1なので地域によっても大きなバラツキがあり、更に、同じ地域内でも物流インフラが未整備な故に、距離が遠くなくても、現地調達・販売が困難ということもあります。進出に際しては、現地調達・現地販売の可能性を自社の製品に具体的に当てはめて検討し、調達先・販売先との物流ルートを実際に確認する必要があります。
現地調達・現地販売が出来ない場合には、原材料・部品・商品・製品を海路・空路で運ばなければならなくなり、インドネシアで生産するメリットが大きく減殺されることになります。他国・他地域と陸路で繋がっている国・地域に進出する場合と勝手が異なりますので注意が必要です。
(6) 労働法等2
他の東南アジア諸国と比べると、労働者の宗教活動や労働者の保護に厚い、デモが起きやすい、などの特徴があります。
宗教活動に関しては、企業には、労働者に、その祈祷のための十分な機会を与える等の義務があります。インドネシアでは、国民の約88%がイスラム教徒ですので、特に、イスラム教の文化・習慣を理解することが重要です。礼拝時間の確保やイスラム教断食明け大祭の休暇(約1 週間)など、多くの配慮が、法律上も実務上も必要です。
解雇に関しては、労働者を懲戒解雇する場合でも退職金の支払・労働裁判所の許可が必要です。整理解雇の場合にも、法定の退職金の支払が必要になりますが、実際には、労働組合から、これを大幅に上回る退職金を要求されることが通常です。他にも、多くの労働者有利、企業不利の規定・実務が存在します。
インドネシアは、労働組合の活動が盛んという特徴もあります。「インドネシア人は、一人一人は温順であるが、集団になると怖い。」との声もあります。
(7) 人件費その他のコスト
以下のグラフの様に、人件費は、中国・タイと比べるとまだ低い水準にありますが、進出に際しては、人件費等の安さだけではなく、インフラや産業集積等及び昨今の人件費の急激な上昇等を併せて検討する必要があります。
ジェトロ資料「第22 回 アジア・オセアニア主要都市・地域の投資
関連コスト比較(2012 年4 月)」より
インドネシアにおける人件費の対前年上昇率は、2012 年度 14.7%アップ、2013 年度 17.0%アップとベトナムに次ぐ高い上げ幅になっています(以下のグラフ)。人件費の上昇率が高い原因の一つは最低賃金の上昇率の高さです。最低賃金の対前年上昇率は、ジャカルタ周辺で40%を超える事例も出てきています(2013 年)。労働生産性の上昇を超えて、賃金が上昇しているように感じます。
賃金対前年ベースアップ率
ジェトロ資料「在アジア・オセアニア日系企業活動実態調査(2012 年度調査)
2012 年12 月18 日」より
電気料金は以下のグラフでは、最も安い水準となっていますが、政府の補助金削減・電力需給逼迫などを背景に、今後上昇していく懸念があります。
また、インドネシアでは、2012 年10 月以降貿易赤字が続いており、インドネシアルピア安(対ドル)傾向にあります。インドネシアルピア安による、輸入品価格の上昇も懸念されます。
ジェトロ資料「第22 回 アジア・オセアニア主要都市・地域の投資関連コスト比較
(2012 年4 月)」より
次号へ続く。
1 国土面積186 万平方キロ(日本の約5 倍)、東西約5,000 キロ、南北2,000 キロ弱、大小17,508 の島から構成されている。
ジェトロ 在アジア・オセアニア日系企業活動実態調査(2012 年度調査)
2012 年12 月18 日より
2 「アジア労働法の実務 Q&A」初版 商事法務
ジェトロ資料「第22 回 アジア・オセアニア主要都市・地域の投資
関連コスト比較(2012 年4 月)」より

- 【掲載元情報】
- 山田ビジネスコンサルティング株式会社 専務取締役シンガポール支店長 東 聡司
- [略歴]
山田ビジネスコンサルティング(株)創業以来、日本国内の中堅中小企業の再生支援業務に携わる。
2012年1月~2月にかけて中国進出日系企業の経営状況を調査。
2012年4月のシンガポール支店長就任後はタイ・インドネシア・ベトナム等ASEAN各国に進出している日系企業の経営状況を調査。
経営の観点から日本企業のアジア進出をサポートする。