2025.09.30
ベトナム【ベトナム】弁護士法人One Asia/第66回「 2025年上半期のベトナムにおける法改正まとめ ②」
- 【ベトナム】弁護士法人One Asia/第66回「 2025年上半期のベトナムにおける法改正まとめ ②」
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◇ベトナム
1.はじめに
2025年6月の国会で成立した法令のうち、前回(2025年上半期のベトナムにおける法改正まとめ①)は、政府組織と地方政府の改革に関連して制定/改正された法律について解説を行いました。
今回は、ベトナムにおけるビジネスとの関係で注目される法律の概要について、ご紹介いたします。多数の重要な法令改正がなされており、すべてを詳細に取り上げることはできないため、自社のビジネスに関連する点は、現地の専門家に照会の上、自社への影響の有無などについて検討することが推奨されます。
2. ビジネス上重要だと思われる法改正
◇法人税法(改正)67/2025/QH15(施行日:2025年10月1日):
産業構造の変化に対応し、ハイテク分野(AI、半導体、デジタル製品)、中小企業支援(インキュベーション施設、コワーキングスペース)、報道・出版が税制優遇対象に追加され、バイオ技術や飼料製造などは対象外となりました。法人税の標準税率20%は維持されつつ、中小企業向けに年商に応じた軽減税率が導入され、年商3億VND以下の企業には15%、3億〜50億VNDの企業には17%の税率が適用されます。
◇技術基準・標準法(改正)70/2025/QH15(施行日:2026年1月1日):
技術規格に関する制度を抜本的に見直し、「一製品・一規格」原則を導入、各製品に適用される国家技術規格が一本化されます。技術規格の策定にあたっては科学的根拠・実務要請・国際整合性を重視し、年次・中長期の策定計画に基づいて構築されることが義務づけられました。
◇デジタル技術産業法(新規)71/2025/QH15(施行日:2026年1月1日):
情報技術・デジタル技術分野を国の中核産業として育成し、産業の高度化・近代化を推進することを目的として制定されました。デジタル技術産業、半導体、AI、デジタル資産(仮想資産、暗号資産)の開発に関する法的根拠が初めて制度化されました。AIの開発・活用を促進するための優遇措置(優遇法人税率、個人所得税の優遇、滞在資格、労働許可申請免除)を導入し、デジタル資産の管理や暗号資産サービス提供の事業条件を定めています。
◇雇用法(改正)74/2025/QH15(施行日:2026年1月1日):
労働市場の多様化に対応し、労働者の権利保護と市場の効率化を図ることを目的とする改正が行われました。失業保険の加入対象が、1か月以上の有期労働契約に基づき就労する者、月額給与が強制社会保険の最低拠出基準額以上であるパートタイム労働者、有償の企業管理者・監査役などに拡大されています。また本法令の細則に当たる政令219/2025/ND-CPでは、労働許可証の申請・発給主体を従来の労働局から省級人民委員会に移管することが定められ、今後労働許可証の取得がスムーズにいくことが期待される内容も含まれています。
◇広告法(改正)75/2025/QH15(施行日:2026年1月1日):
電子新聞やウェブサイトのみならず、ソーシャルメディアやアプリなどのデジタルプラットフォーム全般を対象とし、広告であることを明示する義務を導入。インフルエンサーなどの個人も「広告伝達者」と規定され、消費者保護、税申告、広告内容の証拠提出義務が課され、虚偽広告には法的責任(行政・刑事)が追及可能になりました 。海外企業やプラットフォームによる越境広告にも規制を掛け、登録・申告義務や違法広告の防止措置(違法サイトとの提携禁止、税務対応)を求める体制を整備しています。
◇企業法(改正)76/2025/QH15(施行日:2025年7月1日):
国際的なマネーロンダリング対策の基準を定めるFATF(金融活動作業部会)勧告へ対応するため、企業に対し、実質支配者(BO: Beneficial Owner)の情報を収集、更新、保管し、当局の要請に応じて提供する義務が課されました。BOは、定款資本の25%以上を直接的/間接的に所有する個人、または企業に対し支配権を行使できる個人と定義されます。「配当」や「資本拠出額/株式の市場価格」などの定義も明確化、虚偽の資本申告や資産の過大評価、マネーロンダリング・テロ資金供与といった禁止行為の範囲も拡大され、法定代表者の責任も強化されています。
◇エネルギー使用効率化法(改正)77/2025/QH15(施行日:2026年1月1日):
地方人民委員会に対して年次計画および5カ年計画にエネルギー効率目標を盛り込む義務が課され、実行報告・結果の官報提出が義務化されました。家電・車両だけでなく建材・発電設備などへの最低性能基準(MEPS)の適用範囲が拡大され、エネルギーラベリングが義務づけられます。
◇製品・商品品質法(改正)78/2025/QH15(施行日:2026年1月1日):
製品・商品の分類をリスク程度に応じて「低・中・高」の3段階による管理方式に移行します。事後審査による監視強化への移行を進め、国際的なリスク管理基準に準拠した制度に近づけます。中・高リスクの製品・商品については、法律の規定に基づく適合性の宣言や品質管理措置の遵守が義務付けられ、重点的な事後審査が実施されます。一方、低リスクの製品・商品については、企業による自己申告と比較的簡易な事後審査によって管理されます。
◇行政違反処罰法(改正)88/2025/QH15(施行日:2025年7月1日):
法執行の透明性・公平性・デジタル対応力を高め、国家行政の信頼性向上と社会秩序の維持を図ることを目的に、次のような改正が行われています。①会計、建設、環境などの一部分野について、違反発生日からの処分時効が従来の1年から2年に延長。②処分決定、通知、執行におけるオンライン送付などの電子手段の導入。
◇金融、入札、投資の分野における8法律の一部条項を改正、補足に関する法律90/2025/QH15(施行日:2025年7月1日):
入札法、官民連携投資法(PPP投資法)、税関法、付加価値税法、輸出入税法、投資法、公共投資法、公的資産管理・使用法を改正する法律。調達・投資・税務・資産管理における透明性・効率性・イノベーション支援の強化を目的とした改正がなされています。
-入札法(改正):発注者の役割が整理され、中間的役割の排除によって手続きが効率化されました。技術・緊急性・国家戦略などのケースにおいて特例指名調達(直接指名)が正式に認められました。国有企業及び自営公的機関は入札法対象外とされ、自己の購買規定や内部ルールが適用可能になります。従来の起業家・女性・障がい者・少数民族に加え、スタートアップ企業、科学技術機関、高度技術企業等が入札において優遇対象に追加されました。国家予算を利用する全ての案件でオンライン入札の完全導入が義務付けられています。
入札のみであった投資家選定方式が見直され、直接指名・特例選定・注文方式など、プロジェクト状況に応じた選択が可能になりました。BOT型交通インフラ等の収益不足リスクに対する国家補填制度が法制度化されました。契約期間内の株式や持分の譲渡がより自由に行える規定に改正されました 。
-投資法(改正):
先端分野への誘致競争力を高め、同時に投資の柔軟性と実務的合理性を強化することを目的とした改正が行われました。AI、半導体、グリーンエネルギー、スマート製造などのハイテク・DX・戦略技術に対する投資について、税制・土地利用・行政手続きで優遇措置が強化されました。従来の全国共通の優遇に加え、地域単位(経済特区等)や個別プロジェクト(社会貢献・技術移転を含むもの)でオーダーメイド型の特別優遇制度が導入可能となり、投資家と政府との協議に基づいて柔軟な対応が可能になります。
◇原子力エネルギー法(改正)94/2025/QH15(施行日:2026年1月1日):
原子力発電所の設置から廃止に至る全ライフサイクルを初めて包括的に規定し、IAEA基準との整合性を明記しました。併せて、新設された国家原子力安全監査機関(NRNSA)により安全監督体制も強化されています。
◇鉄道法(改正)95/2025/QH15(施行日:2026年1月1日、一部は2025年7月1日施行):
民間投資を誘導する特別な政策・規制緩和が追加され、PPPやBOT型スキームへの対応が明示されました。鉄道プロジェクトの企画・承認プロセスを合理化し、準備・資金調達の障壁を低減する条項が盛り込まれました 。この改正により、ベトナムにおける鉄道インフラ整備は、民間セクターとの協働や都市計画との連動、安全管理の強化が制度的に整備された形となりました。
◇金融機関法(改正)96/2025/QH15(施行日:2025年10月15日):
金融機関の健全な運営と不良債権処理の効率化を目的とする改正がなされました。金融機関が裁判手続なしに担保物を収用できる権利、担保資産の差押え、刑事事件に関係する担保物の返還制度を明文化。国家銀行(SBV)による0%金利・無担保の特別貸出に関する決定権限が、従来の首相からSBV総裁に移管され、迅速な対応が可能となりました。
3. おわりに
2025年上半期の法改正は、異例のスピードで行われ、複数の法律が直ちに施行されています。このような動きがトー・ラム書記長の提唱する「浪費防止対策」の一環と評価できるのかが注目されるところです。いずれにしても、今回の一連の法改正は、ハイテク分野を中心としたFDI誘致の促進と同時に、ガバナンス・透明性・消費者保護の強化に向けた構造改革であり、参入機会とリスクの双方が拡大しています。
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本ニュースレター(2025年9月16日号)
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