2013.05.10
- その他のアジア【アジア】アジア通信/第17回 インドネシア編 ③投資環境
- 【アジア】アジア通信/第17回
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インドネシアは、巨大な成長マーケットとして、アジアで最も注目されている国の一つです。約2億4,000万人の巨大な人口、増加し続ける生産年齢人口、大きな伸びシロを持つ個人消費等々、インドネシアは市場規模・成長余力共に魅力的です。
今回は、1.概況、2.日本との関係に続き、3.投資環境について説明します。
3. 投資環境
インドネシアの市場は規模の大きさと高い成長可能性を持っており、大変魅力的ですが、懸念材料もいくつかあります。
(1) 小売・サービス市場・流通形態
小売市場は、高い成長が期待されています(下表参照)。
カンパサール The Daily NNA別冊 第11号より抜粋 筆者が加工。
上表では、スーパーマーケット・ハイパーマーケット・コンビニエンスストアを近代市場、個人食料品店・屋台を伝統市場として分類しています。近代市場と伝統市場の違いは、店舗の形態・顧客層・プロモーション方法等の違いだけではなく、その店舗に商品が届けられるまでの流通経路・流通業者等の違いも意味します。自社の商品をどちらの市場で売るかにより、営業の相手先・やり方・取引条件等が異なることになります4。
ジャカルタの巨大ショッピングセンター
セントラルパークモールの夜景
2013年3月筆者撮影
インドネシアに限らず、アジアの最終消費者向けて、商品を販売しようとする場合には、その国・地域ごとの流通形態を押さえることが重要です。
インドネシアはイスラム教国家です(世界最大のイスラム国家)。そして、イスラム教には、豚肉を食べない・酒を飲まない等のタブーがあります。イスラム教徒の人口比率が約88% 5であることを考えると、豚肉・酒関連等の市場は決して大きいとはいえません。インドネシアに飲食店等を出す場合に注意が必要です。
(2) 外資規制
他のアジア諸国同様インドネシアにも外資規制があります。その内容は、インドネシア投資調整庁(BKPM)が定める”ネガティブリスト”に記載されています。小売・サービス業は、外資の単独参入が認められていません。そのため、この分野で進出する場合には、現地のパートナーとの合弁やフランチャイズ等の形態をとることになります。
(3) インフラ
全体的に今ひとつです。
物流インフラは脆弱です。ジャワ島を縦断(横断)する道路や鉄道はあまり整備されていません。また、ジャカルタやその近郊でも、鉄道が整備されておらず、市街地の道路、幹線道路共に慢性的に渋滞が発生しています。ジャカルタには、「インドネシア人はクルマの中で年をとる。」という言葉がありますが、これは比喩というより日々の現実をありのままに描写した言葉といえます。雨が降ると目も当てられません。渋滞が一層激しくなるだけでなく、ジャカルタ市内では冠水する場所も出てきます。
もちろん、ジャカルタには地下鉄や高架道路を整備する計画もありますが、これらの計画が実現するまで、相当長い期間がかかりそうです。
ジャカルタ郊外の渋滞
2012年5月筆者撮影
港湾にも問題があります。取扱貨物量が港湾のキャパシティを超えてしまい、物流が停滞することも起きているようです。
更に、ジャカルタ市街地でも、時々停電が起きる、インターネットの回線速度も遅いなど、物流以外のインフラもまだまだこれからといった状況です。
このようなインフラ整備の遅れがインドネシアの経済発展の大きな障害になってくるものと思われます。
なお、ジャカルタ近郊には、インフラの整った日系の工業団地がいくつかありますが、いずれも人気が高く、空きが少ない・価格が高騰しているという状況にあります。
ジャカルタ郊外の日系工業団地 MM2100
2012年5月筆者撮影
(4) 政治・行政・司法
他のアジア諸国同様、インドネシアでも賄賂・汚職が蔓延しています。2004年10月の就任以来、ユドヨノ大統領は賄賂撲滅をスローガンに掲げており、一定の効果を収めつつあるとも言われていますが、実態はまだまだのようです。現在でも、警察・税関・税務署・裁判所など、広範囲に亘って、賄賂が横行しているという話を聞きますし、賄賂はインドネシアの文化であるので減らないと言う人もいます。インドネシアの玄関口であるスカルノ・ハッタ空港の建設費は、シンガポールのチャンギ空港と同じぐらいかかっているという話も、こちらでは、まことしやかに語られています。見た目でいいますと、チャンギ空港はスカルノ・ハッタ空港と比べものにならないぐらい立派です。
昨年(2012年)も、日系企業の現地法人社長(日本人)が、現地法人の従業員解雇に関する労使訴訟に絡み裁判官を買収したとして、禁固3年、罰金170万円の判決を受けるという事件が起きています6 。インドネシアに進出する場合には、他人事として見過ごすことのできない事件です。
ユドヨノ大統領のスタイルは良くも悪くもリベラルといわれています。そのため、同大統領に対して、リーダーシップを発揮していない、それどころか、何もしていないとの手厳しい評価もあります。それでも、スハルト大統領退任(98年)前から数年間続いた不安定な政治情勢は、ユドヨノ大統領就任後、平穏を保っています。「多様性と寛容」をスローガンとすることによって多民族・多宗教の国家を絶妙なバランス感覚で統治しているといえます。
ただし、2014年は大統領改選の時期であり、次の大統領の方針如何によっては、これまでとは異なる政治の動きがあるかもしれません。インドネシアは、ジャワ人、スンダ人、マレー人、マドゥラ人、華人など、”東洋のユーゴスラビア“と呼ばれるほど、多様な民族により構成されている国家です。様々な民族が住む大小無数7の島々が一つ国家を構成しているのは、たまたま、それらの島々がオランダによって支配されていたからに過ぎないともいえます。それだけに、インドネシアの政策は、強権とリベラル、中央集権と地方分権との間を揺れ動き易いともいえます。次回の大統領選挙の成り行きを見極めるまで、インドネシアへの投資を控えている企業もあります。
4 平成22 年度 東アジア食品産業海外展開支援事業「インドネシアにおける進出可能性調査 報告書」
2011 年3 月 目黒良門(執筆者代表)に詳細に記述されている。
5 外務省2012 年4 月
6 時事ドットコム 2012 年12 月4 日
7 インドネシアは大小17,508 の島から構成されている。

- 【掲載元情報】
- 山田ビジネスコンサルティング株式会社 専務取締役シンガポール支店長 東 聡司
- [略歴]
山田ビジネスコンサルティング(株)創業以来、日本国内の中堅中小企業の再生支援業務に携わる。
2012年1月~2月にかけて中国進出日系企業の経営状況を調査。
2012年4月のシンガポール支店長就任後はタイ・インドネシア・ベトナム等ASEAN各国に進出している日系企業の経営状況を調査。
経営の観点から日本企業のアジア進出をサポートする。