2013.03.04
- その他のアジア【アジア】アジア通信/第11回 メコン地域「カンボジア編」
- 【アジア】アジア通信/第11回
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メコン地域とは、メコン川が流れる中国雲南省、ミャンマー、ラオス、タイ、カンボジア、ベトナムと、メコン川沿いではないが中国広西チワン族自治区から構成される地域の総称です。
メコン地域は、総延長4,200 キロメートルに及ぶ巨大なメコン川によって分断され、この分断が、この地域の経済発展の阻害要因の一つになっていました。そこで、この地域の経済発展のため、1992 年から、メコン河流域経済協力計画(GMS:Greater MekongSub-region Economic Cooperation Program)が始まっています。この計画の最も代表的なものが、「経済回廊」です。具体的には、インドシナ半島を縦断して中国南部からタイやベトナムに至る南北経済回廊、インドシナ半島中央部を横断してベトナムからミャンマーに至る東西経済回廊、インドシナ半島南部を通ってベトナム南部からタイ南部に至る南部経済回廊です(左地図)※1。
JICA HPより
従来は一つ一つの点に過ぎなかった各地域を面として開発していくというコンセプトです。メコン地域を面として捉えると、人口3 億人超の、将来の一大経済圏という姿が浮かび上がってきます。安価で豊富な労働力と大きな伸びシロを持つ市場、つまり製造拠点としても、将来の市場としても、メコン地域は魅力的ということです。
今回は、メコン地域の中で、特に注目度が高く、それでいて、日系企業の進出がまだそれほど進んでいないカンボジアの概要を、次回はミャンマーを紹介いたします。
1. カンボジア
カンボジアの人口約1,500 万人、GDP は129 億ドル(一人当たりGDP852 ドル)※2と、アセアン10 カ国の中でも経済発展が最も後れた国の一つです。その要因の一つであった不安定な政情は、2004 年の第二次フン・セン内閣発足以降、安定状態に入ったといわれています。実際、海外からの直接投資は2004 年以降急増し、GDP もリーマンショック時の落ち込みを脱し2011 年は6%成長を実現しています。
ジェトロ資料より
(1) 日本との関係
日本は、カンボジアに対して多額の援助を行っています(92 年以降トップ・ドナー)。最近の援助額は、2009 年度223 億円、2010 年度152 億円、2011 年度207 億円、内容は、南部経済回廊の道路改修・橋梁建設、シハヌークビル港(カンボジア唯一の深海港)の開発支援、シハヌークビル港経済特区の建設などのハードウェアの整備に加え、産業人材育成・教育などソフト面での支援も行っています※3。
(2) 投資環境
日本政府が多額の援助を行ってきた背景の一つがインフラの未整備です。電力は特に問題です。経済特区以外は停電が頻発していますし、また電気料金も周辺国の約2 倍と割高です(グラフ2)。産業集積も進んでおらず、原材料・部品を、現地・近隣地域(タイ・ベトナム(ホーチミン)など)以外の地域から輸入する場合には、輸送コストの上昇に加えて、リードタイムの伸長というデメリットも発生します。ワーカーの識字率も低い水準にあり、寺子屋を設置している日系企業もあります。これらの不足は、経済発展の伸びシロの大きさも表しています。
人件費は安く(グラフ1)、ワーカーの供給余力も高いといえます(地域にもよりますが)。また、他の東南アジア諸国と比べて、際だって外資規制のバーが低いという特徴があります。例えば、小売・サービス業は、多くの東南アジア諸国では独資での参入が制限されていますが、カンボジアにはこのような制限がありません。
<グラフ1> <グラフ2>
ジェトロ資料「第22 回 アジア・オセアニア主要都市・地域の投資関連コスト比較(2012 年4 月)」より
(3) 日系企業の進出状況
日系企業の進出状況ですが、2011 年3 月末現在の進出企業は50 社に過ぎなかったのが、2013 年2 月現在で101 社と増加傾向にあります※4。主要進出日系企業として、ミネベア、モロフジ、プロシーディング、住友電装、矢崎総業、スワニー、シマノ、コンビ、ミカサ、アルペン、王子製紙、ヤマハなどがあります。また、イオンは、2014 年春に、プノンペンにショッピングセンター(店舗数約150、延べ床面積約10 万平方メール)を開業する予定です。
進出企業の特徴は、労働集約型(人件費が安く電気代が高い)、輸出加工企業、中国・タイ・ベトナム等からの生産工程の一部移転、電子部品・自動車部品・縫製・製靴・プラスティク製品・金属製品等、です。
ちなみに、本稿執筆現在、プノンペンと日本を結ぶ飛行機の直行便はありませんが、中国・韓国を結ぶ直行便はあります。カンボジアへの直接投資額も、中国・韓国が日本を大幅に上回っており、また、プノンペン市内のそこかしこにKTV(中国風カラオケボックス)のお店があり、韓国資本の大きなビルが目立っているなど、見た目にも、中国・韓国の存在感を印象づけられます。
しかし、金額はさておき、日本からの投資は、カンボジアの産業発展・雇用創出に直結する質が良いものと評価されているようです(中国・韓国勢は、不動産・天然資源投資が多いようです。)。東日本大震災の時、カンボジアには、日本のために祈りや寄付を捧げてくれた方が沢山いたようです。そんな親日的な国なので、日系企業の進出が安定的に増加することを期待したいものです。
プノンペン市内の韓国資本の高層ビル 2012 年11 月筆者撮影
以下次回に続く
※1 日経ビジネスオンライン 「マニラ便り~アジア経済の現場から 高成長する「3 億人」のメコン河流域“成長センター”になるのに
不可欠なインフラ整備」2010 年1 月15 日アジア開発銀行総裁(本稿執筆時) 黒田東彦氏参照
※2 ジェトロ資料「東アジア各国・地域の経済力比較(2011 年)」より
※3 外務省資料より
※4 カンボジア日本人商工会正会員数

- 【掲載元情報】
- 山田ビジネスコンサルティング株式会社 専務取締役シンガポール支店長 東 聡司
- [略歴]
山田ビジネスコンサルティング(株)創業以来、日本国内の中堅中小企業の再生支援業務に携わる。
2012年1月~2月にかけて中国進出日系企業の経営状況を調査。
2012年4月のシンガポール支店長就任後はタイ・インドネシア・ベトナム等ASEAN各国に進出している日系企業の経営状況を調査。
経営の観点から日本企業のアジア進出をサポートする。