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2023.07.31

シンガポールシンガポール【シンガポール】森・濱田松本法律事務所 アジアニュース/第93回「外国会社の株主名簿等の登録義務の一部免除」
【シンガポール】森・濱田松本法律事務所 アジアニュース/第93回「外国会社の株主名簿等の登録義務の一部免除」
◇シンガポール

①:外国会社の株主名簿等の登録義務の一部免除

MHM Asian Legal Insights第139号(2022年6月号)※1で紹介したとおり、シンガポールでは、2022年の会社法の改正により、外国会社であっても、ACRA登録義務のある外国会社は、原則として株主の情報に変更があってから30日以内に株主名簿(Register of Members)を修正することや、ノミニー株主名簿(Register of Nominee Shareholders)や実質的支配者名簿(Register of Registrable Controllers)を整備することが求められています。シンガポールに拠点を置かない日本の会社にはこれらの対応が一定の負担になっていましたが、外国会社について、2023年6月28日から、シンガポール国外で上場している等の一定の要件を満たした場合には、株主名簿、ノミニー株主名簿及び実質的支配者名簿の整備義務が免除されることとなりました。以下この免除の概要についてご紹介します。
 
(1) 株主名簿の整備の免除
 
上述のとおり、シンガポール会社法上、外国会社であってもACRAに登録する義務がある外国会社は、原則としてシンガポールにおいて株主名簿を整備することが義務とされています。しかし、2023年6月28日以降、外国会社がシンガポール以外の国・地域で上場しており、かつ一定の要件を満たす場合には、株主名簿の整備義務が免除されることとなりました。この免除を受けるための要件の詳細は、新たに制定された規則に記載されています(Companies (Listed Foreign Companies — Exemption from Section 379) Regulations 2023)。

もっとも、この免除を受ける外国会社(外国の上場会社)は、関係当局から要請を受けた場合には、①過去7年に株主であった者の氏名及び住所、②これらの者が株主となった日、及び③これらの者が株主でなくなった日の各情報を、原則として要請を受けた日から14日以内に提供しなければならないとされています。そのため、免除を受ける場合でも、上記のような株主に関する基本的な情報は適時に提供できるよう整理・準備しておく必要があります。
 
(2) ノミニー株主名簿及び実質的支配者名簿の整備の免除
 
第三者のために株式を保有する者を「ノミニー株主」といい、当該第三者のことを「ノミネーター」といいます。MHM Asian Legal Insights第139号(2022年6月号)※1でも紹介したとおり、外国会社であっても、このノミニー株主及びノミネーターに関する情報をノミニー株主名簿に記録することが求められています。また同じく、外国会社は、実質的支配者に関する情報についても実質的支配者名簿に記録することが求められています。
これらの外国会社のノミニー株主名簿及び実質的支配者名簿の整備の義務については、従来より、①シンガポールの金融機関(financial institution)である外国会社、②シンガポールの金融機関である外国会社の完全子会社である外国会社、又は③シンガポール以外の国・地域で上場している会社で一定の要件を満たす外国会社は免除されていました。これに加え、2023年6月28日からは、シンガポールにおいてプライマリー上場している外国会社についても、これらの義務から免除されることとなりました。
 
以上のとおり、外国会社に課された名簿に関する義務が一部の会社(上場会社等)については免除されることとなりました。一部企業にとってはシンガポールにおける管理コストの削減につながり得るものであるため注目に値します。
 
(ご参考)
※1 MHM Asian Legal Insights第139号(2022年6月号)
   5. シンガポール: ノミニー取締役等に関する会社の登録名簿における記録の規制強化
https://www.mhmjapan.com/content/files/00064989/20220620-023853.pdf
 
②:業務委託先によるデータ漏洩に基づき委託者に罰則が科された事例
 
2023年6月22日、シンガポール個人情報保護委員会(「PDPC」)は、データ漏洩事案(Fullerton Healthcare and Agape CP Holdings case)について、新たな決定を行いました。本事案は、Agape CP Holdings社(「Agape」)が、Fullerton Healthcare社(「FHG」)の提供する医療サービスを利用する患者の予約をサポートするシステム提供の業務(「本業務」)を行っていたところ、Agapeが使用するサーバに不正アクセスがあったというものです。FHGは不正アクセスのあったシステムやサーバを保有していたものではありませんが、PDPCは、以下のように決定をしています。

●FHGのデータ仲介者(data intermediary)としてAgapeが存在していても、データ管理者(data controller)であるFHGは、FHG自身が個人情報を管理している場合と同様のPDPA上の義務を負う。

●データ管理者とデータ仲介者の関係について、データ管理者は個人情報の保護について監督的・一般的な役割を有している一方で、データ仲介者は個人情報を直接保有又は管理する者としてより直接的・個別的な役割を有している。

●FHGはAgapeの個人情報処理について合理的な監督を行う義務を負うことになるところ、本件では、FHGは、Agapeを本業務の発注先として選定するにあたり、事前にハイレベルなITデュー・デリジェンスを実施しており、またFHG・Agape間の契約書ではAgapeにPDPAの遵守を義務づけていたものの、FHGはAgapeによる個人情報の取扱いを定期的に監督することを怠っていた(特にAgapeから更に再委託先・第三者のデータへのアクセスが必要であるという点について適切な事前の質問・確認がされていなかった。)。
 
PDPCは、この監督の懈怠によりFHGが必要な措置をAgapeに命じることができなかったことを捉えて、FHGにデータ管理者としての義務違反があったと判断し、58,000シンガポールドル(約600万円)の罰金の支払いを命じています(なお、Agapeには10,000シンガポールドル(約100万円)の罰金が命じられています)。

上記のとおり、本決定は第三者に個人情報の処理を委託していた場合の具体的な監督義務の内容について一定の踏み込んだ判断をするものです。具体的な事案の個別事情に基づく判断でありますが、個人情報の処理を第三者に委託する場合には、契約上必要な手当てをするだけでなく、契約期間中に亘って継続的に個人情報処理の状況をモニターしていくことが求められることを示唆するものといえそうです。
 
※当事務所は、シンガポールにおいて外国法律事務を行う資格を有しています。シンガポール法に関するアドバイスをご依頼いただく場合、必要に応じて、資格を有するシンガポール法事務所と協働して対応させていただきます。
 
本記事掲載URL
20230720-115452.pdf (mhmjapan.com)


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【掲載元情報】
森・濱田松本法律事務所アジアプラクティスグループ  制作

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