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2023.04.06

シンガポールシンガポール【シンガポール】森・濱田松本法律事務所 アジアニュース/第89回「シンガポールにおけるクリプト関連規制の最新動向」
【シンガポール】森・濱田松本法律事務所 アジアニュース/第89回「シンガポールにおけるクリプト関連規制の最新動向」
◇シンガポール: シンガポールにおけるクリプト関連規制の最新動向
 
金融取引におけるブロックチェーン・DLT(分散型台帳技術)等の技術活用の発展・浸透とともに、世界各国において、クリプト(暗号資産・仮想通貨)に関する法規制も整備・強化されています。本稿では、デジタル資産のエコシステム構築を国家戦略として掲げるシンガポールのクリプト関連規制の最新動向についてご紹介します。
 
(1) 決済サービス法(Payment Services Act 2019)の改正
 
シンガポール通貨金融庁(Monetary Authority of Singapore:MAS)は、デジタル決済トークン(Digital Payment Token:DPT)サービスを含む、決済サービスについて、決済サービス法(Payment Services Act 2019:PSA)により規制しています。

現行のPSAの下では、①DPTの取扱い(売買)、又は②DPTの交換の促進(DPTの一元的な売買を可能にするプラットフォームの運営)のいずれかを事業として行う場合に、ライセンスを取得し、一定の義務を遵守することが求められます。

そして、金融活動作業部会(Financial Action Task Force:FATF)による国際基準の強化を踏まえたPSAの改正が、2021年1月4日に可決されました(現時点では未施行であるものの、近日中の施行が想定されます。)。

今回のPSAの改正においては、規制対象となるDPTサービスの範囲が拡大される点が注目されます。具体的には、主に以下の3種類のサービスが新たに規制対象に含まれることとなります。

(a)トランスファー・サービス(特定のDPT口座から別のDPT口座へのDPT送信を手配するサービス)
(b)カストディ・サービス(DPT等の管理・保護や顧客の指示の実行等を行うサービス)
(c)クティブファシリテーション・サービス(DPTの売買を仲介・斡旋等するサービス)
 
これらのサービスをシンガポールにおいて提供する事業者は、改正PSAが施行された場合、規制対象となる点に留意が必要となります。

シンガポールの一般消費者の間で、現在DPTがそれほど活発に利用されているわけではありませんが、今後DPTの普及が進むにつれて、より規制が厳格化する可能性があるため、関連サービスを提供する事業者は、今後も同法の動向を注視する必要があります。
 
(2) 金融サービス及び市場法(Financial Services and Markets Act 2022
 
シンガポールにおける近時のクリプト関連の規制としては、まだ完全には発効されていないものの、金融サービス及び市場法(Financial Services and Markets Act 2022:FSMA)にも留意する必要があります。

FSMAの下では、①個人若しくはパートナシップにおいて、シンガポールに事業所を持ちつつ、シンガポール国外でデジタルトークン・サービス事業を提供する場合、又は②シンガポール法人において、シンガポール国外でデジタルトークン・サービス事業を提供する場合には、シンガポール国内でデジタルトークン・サービスを提供することが規制の対象となるため、当該サービスを提供する事業者は、ライセンスの取得等が必要となります。なお、FSMAにおけるデジタルトークンには、DPTだけでなく、資本市場の商品(すなわち、株式、債券、デリバティブ等)のデジタル表現も含まれると定義されています。また、FSMAにおけるデジタルトークン・サービスは、改正後のPSAのDPTサービスと同様のサービスをその適用範囲に含む形で定義されています。

FSMAの施行後においては、シンガポールに事業所を有する者、又はシンガポール法人が、顧客の財産管理の一環として、シンガポール国外でデジタルトークン・サービスを提供する場合は、FSMAの規制対象となる可能性がある点に留意が必要となります。
 
(3) 今後の展望
 
シンガポールは、デジタル資産のエコシステムを構築・発展させることを国家戦略として掲げていますが、MASのマネージング・ディレクターであるRavi Menon氏による2022年8月29日の講演によれば、主に以下の5つのリスクに対処するような規制アプローチが重要と考えていることが窺われます。

(a)マネーロンダリング及びテロ資金調達のリスク対策
(b)テクノロジー及びサイバー関連のリスク管理
(c)個人投資家への危害の防止
(d)ステーブルコインの安定性の確保
(e)潜在的な金融安定性リスクの軽減
 
現時点において、MASは、クリプト(暗号資産・仮想通貨)を貨幣として使用することには慎重な姿勢をとっており、特に個人投資家に対しては、その危険性を警告しています。もっとも、MASは、十分な法規制の整備を前提として、ステーブルコイン(価値が他の資産(米ドル等の不換紙幣)と結びついたトークンであり、従来の紙幣の安定性・信頼性と、分散型台帳上での決済手段として利用できるトークンとしての利便性の両方を併せ持つものとして期待されています。)に大きな可能性を見出しています。

また、MASは、2つのリンクした資産をリアルタイムで交換することを可能とする分散型台帳上のホールセール型CBDCが、現在では時間・コストのかかるクロスボーダー決済を根本的に変える可能性があると述べています。
 
以上がシンガポールにおけるクリプト関連規制の最新動向ですが、クリプトの利活用の活発化・普及に伴い、同規制も今後更に整備・強化されていくことが予想されます。技術革新のスピードと相まって、法規制の変更・拡充が頻繁に行われる領域であることは間違いないため、今後、クリプト関連のビジネスをシンガポールで展開するにあたっても、思わぬ落とし穴にはまることがないように、法規制の最新動向を常に注視する必要があります。
 
 (ご参考)
※ MHM Asian Legal Insights第134号(2022年2月号)
4. シンガポール:暗号資産に関する一般大衆保護のための規制ガイドラインの発行(広告規制等)
https://www.mhmjapan.com/content/files/00063987/20220221-102537.pdf
※ MHM Asian Legal Insights第145号(2022年12月号)
1. シンガポール: 暗号資産に関する規制案の公表
https://www.mhmjapan.com/content/files/00066066/20221220-020538.pdf
 
※当事務所は、シンガポールにおいて外国法律事務を行う資格を有しています。シンガポール法に関するアドバイスをご依頼いただく場合、必要に応じて、資格を有するシンガポール法事務所と協働して対応させていただきます。

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【掲載元情報】
森・濱田松本法律事務所アジアプラクティスグループ  制作

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