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2015.06.26

中国中国【中国】中国通信/第10回 『中国リストラ実務の現場より』
【中国】中国通信/第10回
「電子部品事業部を整理し、従業員との雇用を3 か月後に終了する。」85 名の従業員を前に、日本人総経理(注=日本で言えば社長に相当する役員)が通訳を介してそう宣言してからほどなく、会場は大きくどよめいた。


成田空港から飛行機で約2 時間45 分。筆者は一年前からここ上海で、中国最大手の法律事務所のT法律事務所にて、実務研修を受けている。

「当社の電子部品事業部を解体したい。」300 人以上の従業員を擁する日系メーカーの上海現地法人総経理から、T法律事務所が相談を持ちかけられたのは、半年以上も前のことである。事業部の解体には、従業員の雇用の終了が不可欠だ。

中国の法律によれば、従業員との労働契約を会社の都合で終了させる場合には、勤続年数に応じた補償金の支払いが必要である。実務では、労働契約の合意解除に任意に応じてもらうため、法定以上の補償金を支払うケースがほとんどである。


中国での大規模な人員削減といえば、シチズンホールディングスの例が記憶に新しい。
中国でもこの一件は大きく取り上げられており、この件の影響もあってか、日系企業に対する従業員の不信感が高まっているように思う。

「うちの会社はうまくいっていないようだ。」「総経理は来週、日本に帰るらしい。」「このまま会社をほっといて、逃げるつもりだろう。」「総経理の運転手が、総経理は工場から製品の金型を持ち出すつもりらしいと言っていた。」従業員の不信感は噂を呼び、ふとしたきっかけで噴出してしまう。リストラに関する従業員説明会に合せて日本からやって来た役員が従業員に取り囲まれ、狭い部屋に数日間軟禁されてしまったケースもある。

経験者の話によれば、布団もない狭い部屋に社長・弁護士ら4 名が取り囲まれ、外を随時従業員が見回りする中、いすを並べて簡易ベッドにして、夜を明かしたとのことである。


「現在の中国でリストラを実施すれば、ほぼ確実にストライキが発生してしまうだろう。」
語ってくれたのは、T法律事務所で日系企業向けに長年法律サービスを提供してきた、経験豊富な中堅弁護士だ。

ストライキが起こるのはできるだけ阻止したい。T法律事務所の弁護士は、クライアントの総経理達と半年以上前から入念に計画を立て、何度も打ち合わせを重ねた。従業員を説得するには日本人の管理職ではなく、現場をよく知る現地スタッフの協力が不可欠である。労働組合長でもある人事部長に事情を説明し、彼を巻き込みながら、計画を練った。

計画は次のとおりである。雇用終了予定日の3 か月前に従業員説明会を開催し、その場で、3 か月後に労働契約を終了させたい旨を通告する。3 日間の猶予期間を設け、その期間中に解除協議書にサインしてくれれば、その従業員には法定以上の補償金を支給する。また、説明会当日にサインしてくれれば500 元(日本円で約10,000 円)を追加して支払う。
もし、3 日間を過ぎても協議書にサインしない従業員がいれば、法律に従い、強制的に労働契約を解除する。


向かえた当日、冒頭のように総経理が宣言して間もなく、従業員全体説明会は終了した。
T法律事務所の弁護士チームは後方に待機し、法律相談に応じることになっていた。従業員は大挙して弁護士のところに押し寄せ、弁護士を取り囲むと、大声で騒ぎ始めた。現場は騒然となった。「警備を呼んでください。」総経理は直ちに、会社がこの日のために話をつけていた警備会社への連絡を指示した。筆者もこのときばかりは、軟禁されることを覚悟した。

しかし、総勢4 名の弁護士チームは、押し寄せる従業員に対応した。ある弁護士は負けじと大きな声で、ある弁護士はホワイトボードを使って淡々と対応していった。

質問の主な内容は、補償金の計算方法や具体的な金額、他部署に移転できないのかといったものがほとんどであった。弁護士は会社と話し合い、複数の従業員から共通して質問された質問を紙にまとめて、会場に貼り出した。納得した従業員は一人、また一人と会場を後にし、疑問が残る従業員は、引き続き弁護士を取り囲んで質問を浴びせた。嵐のような時間が、1 時間ほど続いた。


昼食を挟んで個人面談が行われた。日本人管理職と人事部長が、弁護士立ち会いの下、労働契約の解除協議書へのサインを促した。面談では、各自に支給される補償金の金額を書面で開示し、納得した従業員は協議書にサインをし、その場で500 元を受け取る。個人面談は驚くほどあっさり終わり、85 名の従業員全員が、その場で協議書にサインをし、無事に、従業員整理の手続きが終了した。


中国人は感情的に見えて合理的だ。日本では中国人の労働者が暴動を起こすようなショッキングな映像ばかりが報道されるが、彼らは感情的な高まりからそのような行動に出るのではなく、あくまでも交渉の一手段として利用しているように感じる。実際に、軟禁された経験者の話を聞くと、身の危険はほとんど感じなかったという。

先の中堅弁護士はこうも語る。「中国人がリストラを告げられた時にまず考えるのは、自分は補償金をいくらもらえるのかだ。」実際に、彼らの多くは、労働契約終了を告げられたすぐ後に、いくらの経済補償金がもらえるかを計算する様子を見せていた。合理的な思考と大胆な行動力、中国人の強みの一つではないかと、筆者は感じる。


※ 中国通信の過去記事は 「国別情報一覧(中国)」 よりご確認ください。
【掲載元情報】
山田ビジネスコンサルティング株式会社 資本戦略本部兼海外事業本部 池野 幸佑

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