2014.01.06
中国【中国】中国通信/第4回 『労務問題に悩まされる、日本人派遣社員』 - 【中国】中国通信/第4回
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1.海外で初めて労務問題に直面する日本人派遣社員の悲痛な叫び
中堅中小企業が海外に進出する時の悩みのひとつに、外国勤務経験のある従業員が不足していることがあります。初めての海外勤務をする日本人派遣社員が、些細なことで大きなトラブルを引き起こしてしまうケースはよくあるものです。
特に中国の場合、外見上は日本人とよく似ているため、誰もが外国にいるという意識が薄くなるようです。その結果、部下は上司のいうことを素直に聞き、反発などしないものだと錯覚してしまうのです。
現地法人の日本人社長が現地従業員の意見を聞かず、「先ずは社長の命令を聞け」とばかりに指示をだす場合、その命令が論理的でなかったり、情緒的であったりすると、部下は猛烈に反発します。
ある地方都市の町に進出した日系現地法人のケースをご紹介します。
その会社では、現地従業員の間から、中間管理職であった中国人社員の能力に問題があり、部下達から配置転換を求める直訴がありました。その会社の日本人社長が直訴はルール違反とばかりに、部下達の要求を無視してしまったことから、一部で出勤拒否という事態が生じました。
社長はこの段階で、従業員たちと話し合いをすればよかったのですが、「そんなことをするやつはクビだ」とばかりに日本流の処分を行いました。
処分により、不穏分子のリーダーをやめさせたと思ったのも、つかの間、新たなリーダーが現れ、今度は社長の処分に反対して、大部分の従業員がストライキを決行したのです。工場の門前や広場は何もしない従業員がたむろします。外は野次馬が集まって成り行きを面白そうに見物します。
ストライキを解散させようとした会社は、現地の労働関係の役所に相談しましたが、トラブル解決に巻き込まれるのをいやがった当局は自社で穏便に解決すべきという助言をするだけで、積極的に仲介の労をとろうとしません。
やむなく、治安当局にストライキしている従業員の排除を求めたところ、警官隊と従業員の乱闘となり、数名が逮捕される事件に発展してしまいました。しかも、逮捕者の中にストライキのリーダーの親戚がいたことから事態はさらに悪化していったのです。
それにもかかわらず、日本本社からは「逐一、状況報告をしろ」とか「当局とよく相談したのか」とか評論家のような指示しかきませんでした。窮地にたたされた社長の心境はといえば、「現場は救援を要請しているんだ!そんなことを言うなら、お前がここへ来て、やってみろ」という恨み節以外のなにものでもありませんでした。
2.騒ぎを収める町の有力者
この騒ぎを治めたのは、町の顔役とよばれる人でした。この類の有力者は地方都市には必ずといってよいほどいます。共産党幹部でもなく、役所や国有企業の高級幹部でもないのですが、多くの親戚が様々な要所に勤めているのが特徴です。
その時の顔役は、会社側とストライキのリーダーの双方の言い分を聞きながら、互いに話し合いに疲れてくる絶妙のタイミングを見はからって会社側に妥協案を出させました。一方で、顔役は親戚のネットワークを使い、当局やストライキのリーダーとも妥協点を探り、最終的に争議は収拾されました。
この場面では、顔役に金銭的なメリットは何もありません。ただし、町の中で、面子をあげたのは間違いのないところです。そして、勿論、別の機会で顔役は企業から相応の利益を受け取っています。
3.中国人の心の扉
このケースでは、最初の段階で部下達の要求に耳を傾けておけば、このような大問題に発展することなどなかったのです。
しかし、多くの日本人派遣社員が朝から晩まで「日本語」で通す生活を送っていました。朝から日本食を食べ、日本語通訳を通して仕事をして、夜は日本人の集まる居酒屋でうさをはらす日々というのがパターンでした。これでは、現地中国人従業員の話を聞くことができないばかりか、彼らの気持ちなどわかりません。
この会社の日本人派遣社員の人々は中国では賃上げ要求が過大で労働コストが上がって、進出のメリットが薄れたとか、中国人は日本的品質管理ができないということを殊更強調していました。
逆に現地従業員幹部達には、「他人の前で平気で人を罵倒したり」「人の頭をたたいたり」「すぐに懲戒処分」する品格のない日本人の下では働きたくはないという憤まんがうずまいていました。
日本人派遣社員の気持ちを伝えようとする通訳達に対しては「日本人の犬」という陰口がささやかれ、トイレの落書きには脅迫まがいの文句が書かれるようになりました。
こういう状況になると最悪です。喧嘩下手、交渉下手の日本人と利己的な中国人との争いの構図ができてしまいます。中国人は強大な権力の前には、極めて従順なのですが(老獪というべきでしょうか)、力関係が絶対的でない場合は、自己の要求を押し通そうとする傾向が強く、この会社でも、一旦騒動はおさまったものの、現在も火種を抱えたまま操業を続けています。普段は大人しいように見える現地従業員ですが、労務問題では金銭以外の不満を持っている場合も多く、とりあえず、賃金や福利厚生の水準をあげるといった程度では、彼らの心の扉を開き、本心を聞くことはできません。
朝から晩まで、彼らと寝食を共にする覚悟がないと、こじれた労務関係の修復は難しいということに気付いている日系企業はまだ多くないようです。
以上
- 【掲載元情報】
- 山田ビジネスコンサルティング株式会社 中国事業部 部長 宮田 顕
- [略歴]
2008年3月~ <山田ビジネスコンサルティング㈱>
□2005年4月~2008年 <大手電子メーカー 中国現地法人 総務部長>
総務部長として、約4,000人の工場の総務・人事・当局交渉・US-SOX法対応等に従事。
合計17年に及びアジア・中国の海外拠点、現地法人に勤務。
□1977年~2005年 <大手都市銀行にて国際業務に従事>
シンガポールにて貸出、資金・為替・デリバティブ等取引、主計企画業務に従事。
上海駐在員事務所長、北京日中合弁リース(銀行と中国対外経済貿易合作部との合弁企業)副社長として中国駐在。
中国進出日系企業支援、同行上海支店開設や中国系企業とのリース取引に従事。





